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Existence12 ページ12

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日常が失われる時はいつも雨の匂いがする。



整はふと足を止めた。気配がしたからだ。



何度感じても慣れない、死の気配。ドン、という音と共に脇腹に鈍痛が広がった。



痛みに思わず声が出そうになる。あの子と違って痛覚を操れないから普通に痛い。



視界が白みがかって霞んでいく。膝をつくことも出来ず、地面に倒れ込んだ。



「____!」



男の声が何か言っている。内容は聞こえないが、罵倒されていることは分かる。



パタパタと男が走り去っていく足音。整は視界の端で自分の髪が赤く濡れていることに気がついた。



手足は冷え切って感覚が無い。やけに遅い鼓動が遠くで聴こえる。



走馬灯、と言うのだろうか。これまでの記憶が瞼の奥を流れる。



ポートマフィアでの出来事、貧民街でのこと。



その場の風景や出会った人々の顔が、声が、現れては消えていく。



最期に辺り一面の銀世界が目の前に広がった。懐かしい景色の中、少年が立っている。



ふと、少年が此方を振り向いた。



整は手を伸ばして口を僅かに動かした。声にならない叫びが吐息として漏れ、深い眠りに落ちていった。


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違和感に気がつくのにそう時間はかからなかった。



太宰は慣れた様子で整のいる部屋の扉を開けた、筈だった。室内は暗く、人の気配がしなかった。



初めて訪れた時のようにまた寝ているのだろうか?
チクタクと時計の音が静かな室内に響く。自分が文句を云ったからか、時計を置くようにしたらしい。



「伊藤さん?」



ベッドのシーツには皺一つ無く、人が居たとは思えない。ソファにも椅子にも人の存在を感じない。



更に、部屋の前に誰一人見張りが居なかったのも気になる。彼に屈強な黒服達を倒す技量があるとは思えないし、もしかしたら森の所にいるのかもしれない。



鼓動が速く感じた。何かが可笑しい。



突如、視界が明るくなった。眩しさに目を細めながら太宰は部屋の入口に視線を向けた。



「何してんだよ。そこに用事あんのか?」



両手をポケットに突っ込んだまま中也は不思議そうに部屋の中を見回した。



「唯の空き部屋じゃねぇか」



「空き、部屋……?」



自分でも驚くほどの間の抜けた声が出た。
何を云ってるの。此処は伊藤さんの部屋じゃないか、君だって訪れたことがある筈だ____



部屋を出ていく中也の背中。太宰は一人取り残された室内で、嘗て姿があった机に向かって呟いた。



「伊藤さん____」



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一言日記

髪伸びてきたな、自分で切ろうかな。


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歌恋 - 続きが楽しみです!お話が自分の性癖にドストライクでした… (12月31日 20時) (レス) @page13 id: 48a7de9cc2 (このIDを非表示/違反報告)
Ashar(プロフ) - 姫歌さん» 姫ちゃんお久しぶりです! ありがとう! 色々落ち着いたからまた細々更新していきます〜! (2019年8月14日 17時) (レス) id: 1b24626048 (このIDを非表示/違反報告)
姫歌(プロフ) - おひさしぶりです。相変わらず最高でした! (2019年8月3日 18時) (レス) id: d8a4d97043 (このIDを非表示/違反報告)
Ashar(プロフ) - 小太刀さん» わぁい! ありがとうございます!! (2019年6月2日 17時) (レス) id: 1b24626048 (このIDを非表示/違反報告)
小太刀 - え、かっこいい好き (2019年6月2日 14時) (レス) id: 5299f2ee2b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Ashar | 作成日時:2019年6月2日 0時

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