ゼロ距離まで (ページ37)

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中尾が痺れを切らし先生に向かっていく。その顔は悲しみと怒りが混じっていて直視することができない。

「ふざけんじゃねぇ...、ふざけんじゃねぇよ！」

ドンと胸を押したがよろけることも無く先生は踏みとどまり彼の胸ぐらを掴み訴えかけるように変わるんだと懇願する。
涙を流しながら胸ぐらを掴む先生の手は震えていて先生もたくさんのことを背負ってこの授業をしているというのが分かった。

「悪意にまみれたナイフで汚れなき弱者を傷つけないように、変わるんだよ！」

先生は頼む、と泣きながら頭を下げた。
全員が息を飲んだその時、突然サイレンの音がうるさく教室に響く。
外は真っ暗で何が起こっているかは全くわからない。

先生は溜息をつきゆっくりと頭をあげると胸元のマイクに向かって告げる。警告、いや終わりを意味する言葉だった。

「警察の皆さん、言ったはずですよ。次の指示を出すまで待ってください、と。大人しくしていなければ生徒の命は保証しない、と。」

口角を少しだけ上げた先生はいいでしょうとマイクに一言だけ残すと冷めきった目で生徒を見た。
Aにはその目が怖いというより怯えに似た色があったように思う。それはこれから生徒を殺すという怯えなのか別のなにかなのはわからない。
その目はさっきまで言葉で訴えていた中尾に向けられている。

「──最初の犠牲者は...お前だ。」

掴まれた中尾は最初こそは反撃していたがこれまでの動きをみていて勝てる訳もなくお腹を蹴りあげられ大きな音を立てて床に倒れた。先生は気絶した中尾に馬乗りになり、手には今朝、隼人から取り上げたナイフが握られている。

「先生！ダメッ！！」

足が思うように動かない。
ガクガクと震えているのが身体中を伝わり動くなと命令している。
でも止めなきゃ、殺人犯になんかしてたまるもんかその思いだけで先生に向かって手を伸ばす。一瞬瞳だけを動かした先生と目があったが手が届くより振り上げたナイフを下ろした方が早かった。