第19話 ページ19
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私の元に至急の任務の司令が来たのは、珍しく時間内に仕事が終わった時だった。
久しぶりにAさんとゆっくりとした夜の時間を共にしようと考えていたので、突然の任務に苛立ちを覚えてしまう。
それでも、常に人手の足りない呪術師の世界。
私情のために任務を投げ出す事などあってはならない事である。
そう思い直し、その苛立ちを押し殺して任務の詳細が記された資料を手に取った。
一行目に書かれた文字に目をやった。
『○○ビルにて 不審事故多発』
いつもはすぐに捲る資料の束。
しかし、今回は違った。
そこに記されているビルは、見覚えのあるビルで、以前私が勤めていた会社がある場所。
つまり、Aさんの勤め先である。
「………伊知地さん、このビルの避難状況はどうなっていますか。」
「避難の事でしたら、何やら今月は『残業撲滅月間』とやらで全社員19時までには退社するそうですよ。」
念の為見回りはさせますが、という伊知地さんの言葉にひとまず息をつく。
けれど、彼女に残業癖があるのは、勤務時代に把握済みである。
残業撲滅月間などそっちのけで仕事を続けるに違いない。しっかりと言い聞かせなければ。
彼女とのトーク画面を開き、早く帰るよう文字を綴る。
言葉足らずな気もするが、致し方無い。
彼女は呪霊の存在など微塵も知らないのだ。
それは、呪術師である自分に対する戒めの様なもの。
呪術師は呪霊を祓う事のできる仕事。
即ち大事な人を、呪霊から守ることができる仕事である、と言っても過言では無いだろう。
しかしその反面、その大事な人を危険に晒す可能性も大いにある。
祓い損ねた呪霊が、怨みを持って呪術師と関係のある人々を襲うこともこれまで何度もあった。
だから私は彼女に呪霊、呪術、その他もろもろ私の仕事に関する事は一言も話さなかった。
加えて、彼女と″恋人″という関係でありながら、深く関わることを避けて来た。
そうすることで、彼女と呪霊の関係を完全に断ち切ろうとした。
けれど、それは建前に過ぎない。
怖がられてしまう、と考えてしまうのが本音。
愛して止まない彼女だからこそ、呪術師という仕事を気味悪がられる事が怖かったのだと思う。
私にとって呪いよりも何よりも、彼女に恐れられることの方が余程辛いことなのだ。
どうか、どうかこの平穏な生活にひびが入らないようにと、願いを込めた拳を強く握り締めた。
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森 - ↓なな…なんと… (2022年2月24日 23時) (レス) id: d826e852a9 (このIDを非表示/違反報告)
emi(プロフ) - 森さん» 森様、てぇてぇ頂きました!笑 お察しの通り最後のシーンはハロウィンの直前でございます…これからの二人のことはご想像にお任せ致します… (2022年2月21日 12時) (レス) id: 9ba5ed02ee (このIDを非表示/違反報告)
森 - てぇてぇな〜‼ ところで、これは2018年でしょうか?(ハロウィンもあっちゃったりしちゃいます?) (2022年2月19日 1時) (レス) @page3 id: d826e852a9 (このIDを非表示/違反報告)
たろ。(プロフ) - emiさん» ひぇ、、なんと……(震」 (2022年1月27日 18時) (レス) id: ba071d904f (このIDを非表示/違反報告)
emi(プロフ) - たろ。さん» たろ。様、コメントありがとうございます!何だかんだ五条先生は後輩思いだよなという私の解釈を盛り込ませていただきました笑 実はこのお話の後、あのハロウィンが来てしまうのです……(トラウマ) (2022年1月27日 17時) (レス) id: 9ba5ed02ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:emi | 作成日時:2021年3月3日 6時