イーティング ページ2
「外、お暑かったでしょう？」
そう言った女はテーブルの上に、どこからともなくグラスとスパークリングワインを取り出し、俺の前に注ぎ置いた。
恥ずかしながら私、お酒は明るくなくて…と知り合いに選んでもらったらしいそのワインは、市場にはあまり出回らない高級品であった。
思わず「美味いな」と呟いてしまうくらいにはかわいた喉に爽やかに広がった。
「数ヶ月前からと言ったがいつからオレをつけていた？」
目の前に出された食事もどれをとっても1級と言えるほど美味しかった。
こんな状況で出されたものをホイホイと食べるのもなんだったが、毒を入れた形跡や匂いはなく、女の表情も特に変わったものは無いため、何よりちょうど食べたいと思ったものが出されており空腹と相まって食べないという手はなかった。
美味しいですか？と首を傾げた女は聖母のようなほほ笑みを讃えたまま斜め上に視線を向けた。
「んー、だいたい3ヶ月前くらいとだけ言っておきますね？」
それ以上はお教えしませんよ、と笑わない瞳の奥で女は笑った。
その後は他愛ない会話をして風呂に入り、いざ床に着こうとした時である。
「この状況はなんだ？」
横に視線を向ければ、しっかりとシャワーを浴びて高級パジャマに身を包む女。
ベッドはそこそこの広さがあるため窮屈ではないが、なんと言っても先程知り合った女だ。
おそらくそこそこの使い手であろうことが予想されるそれを前に安眠できるはずもなく(そもそも同じ空間にいることすらおかしいということを忘れかけていた)、早く寝てしまおうと思っていた今日の予定が狂ったとため息を着く。
「添い寝ですよ？」
脱げと言われれば脱ぎますけどどうします？と隣から顎を掬われ、身体をそのまま後ろに動かして逃げた。
そもそも何故自分の部屋で逃げ惑わなくてはならないのか。そもそも特に害をなす訳では無いのであれば放置で十分では無いかと諦めた。
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作者名：クルミ | 作成日時：2021年1月19日 0時
