彼が消えて早5年。今私は...12【降谷零・安室透】

457.side降谷 ページ19

妊娠5週にて悪阻。食べても嘔吐してしまう為食べれなくなる。貧血で道で倒れてしまい、入院。






妊娠8週悪阻が酷くなる。体重増えなければならないのに減ってしまった為入院。







妊娠12週悪阻治まりつつあるものの油断は出来ない。少しなら食べても嘔吐しなくなった。







妊娠16週悪阻治まる。3つ子な為お腹がすこぶる大きい。



.






.






.







そんな風な内容のカルテを読んで、Aがどれだけ入退院を繰り返したのかを知った。







妊娠して、1番不安な時期を1人にしてしまった罪悪感と、それでもずっと頑張り続けてくれていた彼女への感情をどうすればいいのか分からず唇を噛む。







「どれほど、感謝すればいいんだ...」




零れた言葉に先生が口を開く。





「感謝もそうだけど、君の場合はこれからが大切だと思うよ。その様子だと、もう離れなくていいんだろう？彼女達と。なら、これからの日々をずっと一緒に過ごして、泣いて、笑って、時には喧嘩をして。そうやって、今まで過ごすはずだった大切な時間をこれから作っていけばいい。...これを、君に渡したかったんだ。」






真っ直ぐに此方を見つめて微笑む先生に渡されたのは、2枚の写真で。






写真には、1枚にはかなりお腹の大きいAが心なしか緊張した面持ちで腹に手を当てて微笑んでいるAが。2枚目には、微笑んで座っているAとその周りで笑顔いっぱいな3つ子達が写っていて。






『いつか、彼に会わせてあげられますように。』




『彼が記憶を、取り戻してくれますように。』






裏にはそれぞれ35週という言葉と共にそんなAの一言が書かれていて。







俺はその写真がシワにならない程度に強く握った。








「ありがとう、ございます。」






90度に腰を曲げて頭を下げれば「いいんだよ。顔を上げて？それよりもそろそろ戻ろうか。」と柔らかな声が降ってくる。







その声に顔をあげれば柔らかい声に相応しい笑みを浮かべた先生が立っていて「もう、手放さないようにね。」と一言を落として部屋を出ていく。






もう二度と、手放さない。







先生の言葉に強く頷いてから、写真を懐にしまいつつその後を追った。

458.→←456.side降谷

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す