第301話 ページ8
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「まだ起きてたんだ」
「あ、いや‥‥‥寝てましたけど、Aさんが出ていくのに気づいて‥‥‥」
「ありゃ、起こしちゃった? ごめん」
グレンに事実をバラされてからシノアとこうしてきちんと話をするのは初めてか。
人の許可なく秘密をバラすのは本当にやめて欲しい。
けれどあそこで誤魔化してしまえば、シノアを傷つけることになったかもしれない。
「聞きたいことあるでしょ。質問していいよ」
「ないですよ」
「嘘おっしゃい。あるくせに」
今まで血の繋がりの意味では他人だった人が、実の家族だったなんてことを知らされて何の疑問も抱かないわけがない。
平静を装ってはいるが聞きたいことは山ほどあるだろう。
「遠慮しなくていいよ。ずっと隠してたんだから」
「‥‥‥。
‥‥‥姉さんは、‥‥柊真昼は、知ってたんですか?」
なるほど。そう聞くか。
それはほとんど核心に近づく質問だった。
姉さんは知っていたのか───なぜ姉さんは知っていてシノアには知らせなかったか───。
「知ってるよ」
「‥‥、‥‥そう、ですか」
「うん」
「‥‥‥」
「他には?」
「え?」
「他に、聞かないの?」
シノアは視線を落とし、それから空の闇へ向けた。そして一言、「特に何も」とだけ返した。
「あは、びっくりしました?」とへらりと笑ってみせる。
「そりゃあね。だって、ずっと騙してたんだよ?」
「でもそれは、多分私を守るためですよね?」
「! ‥‥‥」
「姉さんも、Aさんも、そういう人だから」
姉さんだって、私の中の鬼を一時期取り込んでましたから。
Aさんのしたこともそれと同じなんでしょう? だったら何も問い質しません。
ただ純粋に驚いた。
騙していたこと、隠していたことを責めるわけでも怒るわけでもなく。
「‥‥‥あんたのが、一枚上手だったね」
「ふっふっふ、そりゃこのシノアちゃんにかかればお手のものです。なーんて」
Aさんには勝てません。
そう言って、制服をはたきながら立ち上がった。
そろそろいい時間だ。寝室に戻ろう。
シノアに倣って立ち上がる。
「あ! あともう1つ!」
「何?」
「本名、教えてください」
「‥‥‥朝陽。柊、朝陽」
「朝陽姉さん」
「ん?」
「‥‥‥大好きです」
ぼそりと恥ずかしそうに言ったあと、私を追い越しずんずん歩く。
「私も大好きよ、シノア」
よしよしとその頭を撫でてやると、さらに恥ずかしそうに俯いた。
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夏向(プロフ) - 朝陽さん» こちらこそありがとうございます‥‥!!! (2022年10月2日 23時) (レス) id: d3650b90b8 (このIDを非表示/違反報告)
朝陽(プロフ) - 続きめっちゃ楽しみにしてました!ありがとうございます! (2022年9月13日 23時) (レス) id: 2c0d85a97f (このIDを非表示/違反報告)
夏向(プロフ) - レモンはちみつさん» ありがとうございます!文章を褒めていただけると本当に嬉しくてすぐ調子乗ってしまいます(笑)気長に更新をお待ちいただけるとありがたいです…! (2022年9月13日 23時) (レス) @page49 id: d3650b90b8 (このIDを非表示/違反報告)
夏向(プロフ) - 仁奈さん» ありがとうございます!更新が本当に遅くて申し訳ないです…。気長にお待ちいただけるとありがたいです…! (2022年9月13日 23時) (レス) @page49 id: d3650b90b8 (このIDを非表示/違反報告)
レモンはちみつ(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです!一気読みしてしまいました。ワートリも終わセラも大好きなので嬉しいです!!書き方もすごく上手くて感情移入してしまいました、書き手として尊敬します!これからも頑張ってください!更新楽しみに待ってます! (2022年8月14日 22時) (レス) id: 95afc2042e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏向 | 作成日時:2018年4月2日 10時