第309話 ページ20
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「‥‥よっ‥‥と」
適当に見繕った車の運転席に座り、エンジンをかけてみる。
幸運なことに鍵は差しっぱなしで、回せばすぐに動いた。
「お、よかった」
この車が見つからなければバッテリー探しからしなければならないところだった。そんな面倒は御免である。
「さ〜て行きますかね〜」
〈‥‥独り言が多いな〉
「誰の目も気にする必要ないんだから良いじゃない。黙々と帰るより楽しく帰った方がいいでしょ。話し相手なってね」
〈嫌だね〉
「ケチ臭いこと言わないでよ。
はーい出発進行〜」
慎重にアクセルを踏み込み、高速に乗る。
空は雲ひとつなく、街灯もないため星が綺麗に見えた。
「空は憎らしいほどいつもどおりだよなぁ。こんなにボロボロの世界なのにね」
毎日決まって太陽が昇り、昼が終わって、夜が来る。
月は形を変えながら、星は季節ごとに変化しながら。
世界は不変じゃない。けれど、変わらないものもある。
「あんたが生きてた頃に見てた空と、今の空は、同じ?」
〈‥‥‥さぁな。そんなん昔のことすぎて忘れた
「記憶力ないのね」
〈長いこと生きてて全部覚えてたら、そのうち狂うぞ。必要ねぇことは忘れるもんだ〉
「そういうもん?」
〈そういうもんだ〉
空の変化なんて、嵐にとってはそんなものか。そりゃそうだよな、こいつ色魔だし。所詮女にしか興味のないやつだったに違いない。
〈お前が俺のなにを知って言ってんだ〉
「風貌からしてそうでしょ。今まで何人の女 手込めにしてきたの?」
〈俺は誘ってきたやつとしかした覚えはねぇ〉
「あはは、色魔じゃん。間違ってなかった」
〈いい加減殺すぞ〉
「やれるならやれば? 私が死んだらあんたも消える‥‥、‥‥おっと?」
100メートルほど先に捉えた大きな影に、言葉を切った。
ヨハネの四騎士を2匹、目視で確認する。
「避けられ‥‥なくはないか。
‥‥‥いや、やめよ。殺す」
長らく放っておかれた車だ。急ブレーキ・急カーブを乱用すればオシャカになる可能性も否めない。ここでこの移動手段を失いたくない。
右手で膝上の刀の柄を掴み、鞘を口で咥えて車外へ抜刀する。
上へと縦に振れば、斬撃がヨハネの四騎士を真っ二つに斬り裂いた。
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夏向(プロフ) - 朝陽さん» こちらこそありがとうございます‥‥!!! (2022年10月2日 23時) (レス) id: d3650b90b8 (このIDを非表示/違反報告)
朝陽(プロフ) - 続きめっちゃ楽しみにしてました!ありがとうございます! (2022年9月13日 23時) (レス) id: 2c0d85a97f (このIDを非表示/違反報告)
夏向(プロフ) - レモンはちみつさん» ありがとうございます!文章を褒めていただけると本当に嬉しくてすぐ調子乗ってしまいます(笑)気長に更新をお待ちいただけるとありがたいです…! (2022年9月13日 23時) (レス) @page49 id: d3650b90b8 (このIDを非表示/違反報告)
夏向(プロフ) - 仁奈さん» ありがとうございます!更新が本当に遅くて申し訳ないです…。気長にお待ちいただけるとありがたいです…! (2022年9月13日 23時) (レス) @page49 id: d3650b90b8 (このIDを非表示/違反報告)
レモンはちみつ(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです!一気読みしてしまいました。ワートリも終わセラも大好きなので嬉しいです!!書き方もすごく上手くて感情移入してしまいました、書き手として尊敬します!これからも頑張ってください!更新楽しみに待ってます! (2022年8月14日 22時) (レス) id: 95afc2042e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏向 | 作成日時:2018年4月2日 10時