第245話 ページ17
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中将が刀を下ろすと、その腕に絡みついていた黒い糸も霧散し、背後から嵐の気配が消える。太刀川さん達はようやく刃が引かれたことにほんの少しだけほっとしたような顔をした。
だが、その奥で、公平だけが今にも泣きそうなほどに顔を歪めて私を見ていた。なんであんたがそんな顔するの、と心中でこぼす。この話の中に、彼の感情を揺さぶるようなものは何もなかったはずだ。
「‥‥で。中将。あなたが知りたかったことは、これで全てですか?」
「‥‥お前は、8年前みたいにならないように気をつけろと言ったな。それはどういう意味だ? お前も真昼のように反逆でも起こすつもりか?」
「反逆? まさか。執着するとろくなことになりませんよという忠告です。現に姉は力に執着して、飲み込まれて壊れました」
あれだけの天才があっさりと死んだのだ。好奇心は猫をも殺すというが、執着でだって人は死ぬ。
中将は無表情でじっと私を見ている。いや、彼だけではなくこの場にいる全員が私を見ているけれど。別にご立派な講釈を垂れたわけでもないのだから、そんな苦々しい顔をしないでほしい。
「‥‥何が目的だ? お前が俺にした抗議で、何かが変わったか? 目的は達成できたか?」
「‥‥目的、ですか。強いて言えば‥‥姉に救われたこの人生の、意味を見つけることですかね」
「意味?」
「姉が唯一遺してくれたものが人生なわけですが、その人生が無意味だったと思いたくないんです。だってそれは、あの人がしたことが無駄だったということになるでしょう」
言いながら私は関節を外して拘束具からの脱出を試みる。案外簡単に取れた。素足をコンクリートの床につければひやりとして、誰か靴持ってきてくれないかなぁと思った。
「‥‥いつでも抜け出せたとでも言うか?」
「実際その通りだったじゃないですか」
椅子の前には中将がばら撒いた調査書が落ちているが、構わず踏みつけて歩く。ここに書いてあるのは、捨てた「私」だ。柊朝陽は死んで、その死体を踏み台にして百夜Aは生きている。
すべては、もう終わったことだ。
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じゆんきむ(プロフ) - 返信ありがとうございます。楽しみに待ってます! (1月11日 21時) (レス) id: 3005c0f58d (このIDを非表示/違反報告)
夏向(プロフ) - じゆんきむさん» 返信遅くなりすみません。現在修正中なんですがリアルが忙しくて…。年度内には再公開できればと思っております (1月11日 2時) (レス) id: b371f4960f (このIDを非表示/違反報告)
じゆんきむ(プロフ) - 7個目の話はいつ公開されますか?? (12月27日 1時) (レス) id: 3005c0f58d (このIDを非表示/違反報告)
雫鶴鳩 - ありがとうございます!!見捨てなんてしませんよ(笑)これからも更新頑張ってください!! (2017年10月21日 17時) (レス) id: 86c88d0ffc (このIDを非表示/違反報告)
夏向@テスト期間は低浮上(プロフ) - 雫鶴鳩さん» (続き)読みにくいかと思われますが、今後はそのように解釈していただけると嬉しいです。これからもこの小説を見捨てないでいただけると大変ありがたいです! (2017年10月21日 10時) (レス) id: 2e5a8262c2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏向 | 作成日時:2017年10月10日 16時