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02. ページ28

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妙な男だと思った。放っておけばいいものを、無理矢理連れて帰ってまで治療するなんて。

いや、それが人間として普通なのかもしれないと思った。
私のいた世界を「普通か異常か」を判断する物差しにするには、いささか腐りすぎていたから。

半ば強引に話させられたあと、男───迅悠一は、突然こんなことを言い出した。

「人ってさ、何で生きるんだと思う?」

哲学のような問いかけだな、と思う。一体どういう意図を持ってこの質問をしたのか図りかねて、小首を傾げた。

「生きる理由は100人いれば100通りの答えがある。
君の、Aの答えは、何だ?」


生きる理由。そう考えても何も思い浮かばなかった。少なくとも、この状況では。

「‥‥今は、ない」

「“今は”?」

「‥‥‥最初は、あったのかもしれない。けど、もう捨てちゃった」

家族を、仲間を守るために私は多分、生きていた。
だが、どのみち私は死ぬのだから、必要のないものだと、切り捨てた。
今にして思えば、強引に生きる理由とするためにすがっていただけなのかとさえ思えてくる。

「おれはね、人生を楽しむために生きてるんだと思うよ」

「‥‥人生を、楽しむ?」

「そ。
人生は楽なことばかりとは限らない。必ず何か壁が立ちふさがる。そしてそれを乗り越えたときに何か成長できる。
これほど楽しいものはないだろ?」

この男の感性を疑ったが、その自信満々の顔は、なぜかそういうものかと考えさせる。

───グレンと、よく似ている。
彼もそのどこから来るのかわからない自信に満ちた顔で無理難題ばかりを言ってきて。

「そこで君に提案だ」

今度は何を言い出すのか。
若干身構えながら次の言葉を待った。


「───ボーダーに、入んない?」






───あの時、あの場所で、あなたに会えていなかったら、今の私は存在しない。



迅さん。

あなたはただ命を救ってくれただけの恩人じゃない。

私という人間そのものを救ってくれた。

恥ずかしくて口には出せないけど、

────人生を楽しむチャンスを与えてくれて、ありがとう。


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第212話→←コールド・スタート



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夏向(プロフ) - るい酸性さん» 読み返していただきありがとうございます!6は現在改変中でして、土曜日中に全体公開する予定なのでもうしばらくお待ちください! (2023年2月11日 0時) (レス) id: b371f4960f (このIDを非表示/違反報告)
るい酸性(プロフ) - 久しぶりに読み返しました!6のパスワード教えて欲しいです! (2023年2月10日 17時) (レス) @page49 id: 825df6404c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:夏向 | 作成日時:2017年9月7日 19時

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