伝わる温かさ ページ39
.
素っ気ない言葉なのに、優しいと思った。
きっと、いくら遠慮してもこの人は私をベッドに寝かすだろう…
そう思うと遠慮の言葉も続かない。
黙って下を向く私の頭に、ポンッと一瞬だけ感じた重み。
「もう寝な」
ミンソクの手が温かくて、その優しさが体中に広がっていくようだった。
「ミンソク、」
寝室から出て行こうとするミンソクを思わず呼び止める、
「んー？」
でも、引き留めた以上何か言葉を発しなければと思うのに、うまい言葉が見当たらない。
「A?」
先程頭に乗せられた手も、珍しく優しい声と眼差しもくすぐったくて。
温まった体がジーンと更に熱くなる。
少しずつ滲んでいく視界…
“ごめんね”
“ありがとう”
ううん、伝えたい言葉はハッキリわかってる。
でも、だめだ。
今は言葉にしたら泣いちゃう…
泣いちゃいけない。
これ以上甘えちゃいけない。
ふぅと深呼吸ひとつ。
スイッチを切り替え、口を開いた。
「やっぱり…毎晩、夜景見ながらランニングしてるの？」
突拍子もない質問を投げかけられたミンソクは、
案の定口をポカンと開けた。
そしてすぐに呆れた様に目を細める。
睨まれたらホッとした、なんてちょっと危ない人みたいだけど、やっぱりホッとした。
お陰で泣いて困らせる事態は避けられた。
「お前…さっきもそれで吹き出してたんだろ」
「ぶふっ」
緊張の糸が切れケラケラ笑いだす私に近付くと、今度は乱暴に頭をグチャグチャ掻き乱してくる。
「っだってー！夜景見ながらとか…っ、く、」
「勝手に想像すんな」
最後はおでこにペチり、
強めの音が響く。
「早く寝ろ酔っ払い」
目尻に浮かぶ涙を人差し指で拭いながら、
出て行くミンソクの背中に。
可愛げなくてごめん。
ありがとうミンソク。ごめんね。
心の中で、そう呟いた。
「あ」
半分閉まりかけたドアが止まる。
「ランニングは朝だけ。それにあれを使うのは雨の日だけだバーーカッ」
顔を覗かせ、思い出したように言うと、
「おやすみ」とドアを閉めた。
…そっかぁ。
「なぁんだ..つまんないの」
もう一度、ひっそりと笑った。
いつもと違う洗剤の香りがする服を着て、見慣れない部屋で、他人のベッドに横たわる。
落ち着かないはずなのに、なんでかな。
ぐっすり眠れそうな気がした。
心がやけにポカポカしてるのは、熱いシャワーを浴びたからじゃない。
私はただ何も考えないように、そう思いながら目を閉じた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2675人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エリ(プロフ) - こんばんは。このお話が大好きで何回も読ませて頂いてます。しうちゃんのお部屋、公開されて真っ先に思ったのがマリアージュの部屋だ！と。しゅしゅさんまた続編書いていただけませんか？笑 ほんとに好きなんです。待ってます！ (2019年5月4日 0時) (
レス) id: 0581c9356e (このIDを非表示/違反報告)
むあ??(プロフ) - 久しぶりですこんなに泣いたり笑ったりしながらお話読んだの。本当に感動しました。キュンキュンしたし何より幸せでした。素敵な時間ありがとうございます！！ (2018年11月5日 20時) (レス) id: bff18baa55 (このIDを非表示/違反報告)
しゅしゅ(プロフ) - ひつじさん» 寝るためだけの家なのでリビングは寛げないですが、ミンソクのベッド、最高級です…おふっ(お願い寝かせて)ぐったりですよね、二人共…。明日からどうなるやら…。引き続き読んでいただけますように…(^^) (2016年9月8日 10時) (レス) id: 93830427c7 (このIDを非表示/違反報告)
しゅしゅ(プロフ) - yumiさん» yumiさん初めまして(^^)作品読んで下さりありがとうございます。…ひぃっ…！！ハワイアンシウミンに会ったんですか…？！しゅ、しゅげえ(拝)そうなんです、しうちゃんただ歩いてるだけなのに宇宙一かっこいいんですよね(？)引き続き、楽しんでいただけますように…！ (2016年9月8日 10時) (レス) id: 93830427c7 (このIDを非表示/違反報告)
ひつじ(プロフ) - 寛げないリビング…予定外の流れ弾…（笑）わかり易過ぎる位の 表現ですね。二人とも ぐったり疲れた心と体を 休めて欲しいですね。ミンソクのベッド 寝心地いいだろうなぁ…♪ (2016年9月7日 10時) (レス) id: 6fa124c712 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：しゅしゅ
| 作成日時：2016年8月30日 22時
