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それでも、制服を目の前にすると、
表情が硬くなって。
ハンガーに吊るされた制服と、しばらく睨み合っていた。
岩本「亮平、着替えたくない？」
阿部「だって、着替えたら、行かなきゃいけなくなる」
そんなことを言いながらも、時間が迫ってくると、
自分で着替えてくれて。
出発前に、事務所に寄って、みんなに声をかける。
阿部「行ってきます」
小さな声だったけど、ちゃんと聞きとってくれて、
『行ってらっしゃい』って声が返ってきた。
助手席に乗った亮平は、だんだん俯いて、
学校に着く頃には、お腹をギュッと抑えていた。
阿部「おなか、いたい」
真っ青な顔をして、ポロポロと涙をこぼして。
岩本「うん、気分悪いなら、出しちゃいな」
持ってきておいた袋を、亮平の前に準備して、背中をさする。
しばらく我慢しているようだったけど、
やっぱり、全部戻してしまった。
岩本「よし、泣かなくて、大丈夫だから」
まだ青い顔をしている亮平が落ち着くように、
そのまま背中をさすり続ける。
ふと、校舎の方を見ると、こちらの様子を伺う２つの人影。
１人は、多分、保健室の先生で、
もう１人は誰か分からないけど。
きっと、亮平のことを気にかけてくれているんだろうな。
亮平に声をかけて、俺だけ車から降りると、
先生方も近づいてきてくれたので、軽く挨拶をした。
もう１人の先生は、スクールカウンセラーの先生らしい。
簡単に朝からの様子を伝えながら、
車の中の亮平を見ると、こちらに背を向けてしまっていて。
亮平が帰りたいなら、もう帰ろうと思ったんだけど。
『保健室にいるだけでも、どうですか』と提案されて。
助手席のドアを開けて、亮平の前にしゃがむ。
先生から提案された方法を伝えて、
もちろん、帰りたいなら帰ろう、と言うと。
阿部「保健室、行ってみる」
予想以上に前向きな答えが返ってきた。
片手はお腹を押さえたままで、
反対の手は、俺の手をギュッと握って。
しばらくは、たくさんお世話になるであろう
保健室を案内してもらって。
入学式にも教室にも行くことはできなかったけど、
亮平は、それだけで十分頑張ったと思う。
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作者名：アクモ | 作成日時：2023年2月1日 20時
