ともくんの2 (ページ38)

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rd× すれ違いページ38

「あっ…」

「…おつかれ」

「お疲れ様…」

楽屋のドアを開けると待ち構えていたのは恋人の神ちゃん。
…いや、もう恋人じゃないか。
気まずそうに携帯にまた視線を戻して俺の方は向かない。
今日は二人でロケに行くからもちろんメンバーは来ない。

「メイクお願いしまーす」

ギリギリに入ったおかげで俺は神ちゃんと二人の時間は少なかった。
それを狙って来たんやけどな。
携帯を握り締めたまま先に楽屋を出た。
なかなかない二人のロケは前までは楽しみやったけど、
今じゃもう苦痛の時間になってしまった。
かみしげ、やなんて騒がれるけど、仕事やからやで。
…恋人の時間なんて、仕事のせいでなくなるねんから。

俺の仕事が決まったタイミングで、神ちゃんも舞台が決まった。
映画やドラマがばたついて、それに加えてライブも。
グループとしても大きい仕事やからこそ、力が入る。
でも、俺は個人の仕事も山ほどが抱えて、
プライベートなんかなかった。

「すごいやん、しげ。俺は大丈夫やから、頑張って」

そう言ってくれた神ちゃんの言葉を信じて仕事に打ち込んだ。
帰ってくるたびベッドの端で丸くなる神ちゃんを抱きしめた。
隣で寝て、朝起きる頃には完璧な朝ごはんを用意してくれて
「いってらっしゃい」そう笑顔で送り出してくれた。

たった朝の30分でも俺は幸せやった。

でもだんだん仕事で帰られへんかなって、
ホテルに泊まって、帰る日もばらばら。

もちろん連絡だって最初はこまめにしてた。
それも次期に少なくなって、電話なんかいつからしてないんやろう。
いつ帰るかの連絡も、仕事の予定も何も言わなくなった。

そんなんやのに神ちゃんは会うたびに
「仕事どう？疲れてない？」
そう優しく声を掛けてくれた。

ある日、家に帰ると神ちゃんの荷物がないことに気づいた。
引き出しも寝室にも、風呂場、洗面所…どこにもなかった。
片付けてくれた家。
作ってラップされた料理。

「「仕事頑張ってね。応援してます」」

そう書かれたカードに嬉しくなって、
ひさびさに神ちゃんのトーク画面を開いた。
だいぶ前に送られたメッセージは神ちゃんで最後。

「「体には気をつけてね」」

優しさで溢れる神ちゃんに思わず頬が緩んだ。
安心しきったのかそのままトークを遡って俺は眠ってしまった。

あれから数ヶ月。

神ちゃんが家に来ることはなかった。
来た形跡もなく、仕事が落ち着いた頃には、
俺と神ちゃんを繋ぐ物は何もなくなっていた。