世界はロックンロークで満ちている (ページ8)

今日:1 hit、昨日:10 hit、合計:7,035 hit

8．かみ合っていく歯車たちページ8

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アルバムに収録する予定の曲がひとつ遅れていると知った。

「岬さんが急性胃腸炎で倒れたので、代わりに別の人が作詞をすることになったそうです。残念だけど今回は諦めましょう。こっちも時間ギリギリです」

岬さんはまだそんなに有名な人ではないけど、最近になっていいなと思う日本の曲は岬さんが手がけたものが多くて、今回無理を言って曲を提供してもらうことになっていた。だけに、正直残念だ。

「代わりの人って？」

「確か、岬さんが直接指名した後輩って言ってたような」

どっちみち岬さんでないなら、意味がない。日本初のソロアルバムで、相当気合を入れて作っているアルバムで、だからこそ岬さんの曲が欲しかったのに。

期待した分ショックとか失望が大きくて、別に期待なんかしてなかった。

この曲も数ある曲のひとつで、アルバムを構成するパズルのピースで、誰かにとっては好きな曲。誰かにとっては気に入らない曲、そんな風にして扱われていく楽曲のひとつになる。

そう思ってた、けど。

「岬さんの曲、上がってきました！3日後にレコーディングなので、よろしくお願いします！」

イヤフォンから流れてくる曲に衝撃を受けた。まず、女の人？

デモテープは女性ボーカルの声だった。もともとある曲を譲ってもらったりする場合では女性がガイドボーカル、ということもあるけどこの曲は俺が頼んだ曲だ。

それなのにどうして女性ボーカル？ああ、でも一人称は「僕」だ。じゃあ意図的に？

それよりも、歌詞が。

「これ、書いた人、月島Aって？」

「さあ、新人なんですかね」

どうやって生きてたらこんな歌詞が書けるんだろう。歌詞には丁寧に平仮名とローマ字表記で読み方が付けられていたけれど、ほぼ同時に受け取った韓国語翻訳された歌詞を見て手が止まった。

共感、というより同調。

この歌詞に共感するようでいて、まるで自分のことのように自然と同調させられる。

これが俺のために書かれた歌詞だから？だとしたら同調しているのは俺じゃなくて彼女の方なのだろうか。

複雑だ。

俺の何を知ってるんだよ、とも思うしこんなにもストンと胸の奥に落ちていくこの歌詞たちが痛々しくもあり心地よい。

「ちょっ、ジェジュンさん、どうしたんですか？」

「え、、？あ、何で、、涙なんか、、」

今日ばかりはボタボタと流れ落ちる涙を止めたくないと思ってしまった。