四十八 ページ50
【留三郎side】
先程、シナ先生から前回の実習の合格を告げられた。
漸く肩の荷を下ろすことができる。
そして今回の実習、文次郎達も合格だったそうだ。
文次郎のリードの仕方が危うかったり、小平太がお転婆娘過ぎたりと波瀾万丈だったらしいが、ギリギリ合格した様だった。
文次郎が合格したのは少し気に食わないが、まあ自分も合格できた事だし良しとしておこう。
俺が部屋に戻ると、伊作がまた薬を煎じていた。
部屋中に薬の匂いが充満している。
留「おい、またその薬か?それは匂いがキツいから此処では止めろって前も言っただろう」
伊作「すまない留三郎、他でやろうとしてはみたんだけど僕の不運の所為で全然薬を無事に煎じる事ができなくて……やっぱり此処じゃないと…」
そう言って瞳を潤ませながら此方に訴えてくる伊作を見ると責めるに責めきれなくなってしまった。
留「はあ……分かった。その薬も怪我人のためなんだもんな」
伊作「ありがとう!留三郎!!」
伊作の不運な体質は厄介ではあるが仕方がない、と繰り返し自分に落とし込み続けて早五年の月日が過ぎていることについては考えないことにしよう。
伊作の薬の匂いは気にしない様にして、俺は自分の机で本を読み始めた。
数十頁程読み進めたくらいの頃、視界の端で何やら煌めいて、目線を移すと机に置いておいた玉簪があった。
夕陽の光を浴びて輝くそれは一層美しく見えて、思わず手に取ってしまった。
伊作「あ、またその簪見てる」
背後から声が聞こえて振り向くと、伊作が薬を煎じ終えて此方を見ていた。
伊作「留三郎は好きだよね、そういう手作りっぽい物。町で昔買ったのが荷物から出てきたんだっけ?」
留「ああ、すっかり忘れてしまっていたが出てきてみると綺麗だし懐かしくてな。こうして飾ってる」
そう言って手に持っていた簪を、竹で作った筒状の入れ物に立てた。
(伊作、すまないな)
伊作がああ言っているのは俺が嘘をついたからである。
何故こんな嘘をついたのか、自分でも詳しくは解らない。
ただ、Aから簪を貰ったことを誰かに話すのが癪だったという事だけは確かだった。
誰かに言うことなく、この、何処からか湧いて出てくる優越感に一人で浸っていたいと思ったのだ。
(“貴方を守ります”、か……)
それは俺の台詞なんだがなぁ……
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ゆかり(プロフ) - あー、喜八郎と一緒に寝たい人生だった (12月24日 18時) (レス) @page16 id: c2f7bbb147 (このIDを非表示/違反報告)
黒糖さまでーす - 夢主さん最高 (2023年3月13日 19時) (レス) @page50 id: b07dd8e215 (このIDを非表示/違反報告)
ずんだ餅 - 面白かったです✨(*`▽´*) (2023年2月22日 0時) (レス) @page50 id: 12d02573a8 (このIDを非表示/違反報告)
勘ちゃんに食べられたいお菓子🍡 - 面白かった〜 (2023年2月15日 0時) (レス) @page50 id: 5ad601e96f (このIDを非表示/違反報告)
雪女 - お話良かったです、素敵な作品ありがとうございます。 (2022年7月29日 13時) (レス) @page50 id: 5834c2d9fa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ホシ | 作成日時:2021年12月31日 3時