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拾肆 ページ15

風が収まり、目を開けると、そこには鳥居から出た空蝉の姿。

彼女は俺を見て微笑んだ。その目には涙が浮かんでいた。

俺はすぐに彼女を抱きしめる。


「シルク…ありがとう。」



そう、彼女が呟いた刹那。



___空蝉の、止まっていた時計の針が動き出した。





生きたまま彼岸に近い状態で時が止まっていた彼女の身体は、此岸に戻ることで本来の時間を取り戻す。


停止していた何年もの時間が一気に彼女へと戻っていくことで、その身体は耐えきれずに、光の粒となって虚空に消えた。


指の隙間を縫って消えていく光は、とても綺麗で空虚なものだった。



さっきまで腕の中にいたはずの彼女の姿はどこにも見えなくなり、仄かな体温だけが残る。





これでいいんだ。これが、彼女の願いだから。



「シルク、わかってたんだな。こうなること。」


あまり取り乱さない俺を見て、モトキが言う。


メンバーは未だ事態を飲み込めていないようだ。


「あぁ、わかってたさ。
あいつは言ってたからな。『この場所でしか空蝉でいられない』って。」


ふと、彼女がいたはずの場所に目を向けると、一枚の形代が落ちていた。


俺はそれを拾い上げて、書かれている文字を読む。





…その文章に、気が付けば涙が溢れて止まらなかった。




「ばかやろう…
俺が先に言おうと思ってたこと、言いやがって…」




_____________

シルクへ


君を、好きになれてよかった。
A
_____________


A…

それがお前の本当の名前なんだな。




「A。お前の願い、叶えてやったよ。

俺も、Aが好きだ。」



誰も居なくなった空へそう呟く。








俺たちの、長い長い夏が終わりを告げた。

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りんてん - え、もう感動して涙がポロポロ...。 泣けました!素晴らしいです!! (2019年10月25日 23時) (レス) id: e2668604a6 (このIDを非表示/違反報告)
どこか村のだれかさん - 気づいたら読み終わってました!面白かったです! (2019年9月9日 0時) (レス) id: 3706e8b566 (このIDを非表示/違反報告)
バニレ - とても面白かったです。更新待ってます。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 527198f7e6 (このIDを非表示/違反報告)
www - イエ―イ!面白いよ!相変わらず!w (2019年8月26日 17時) (レス) id: bb2f701b11 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:來(らい) | 作成日時:2019年8月25日 21時

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