【d!】85%の敬愛 (ページ20)

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19. ページ20

『い゛ッ』

首筋に生暖かい感覚が走る。
それと同時にゾムさんに傷をつけられた箇所が酷く痛んだ。
伸ばした腕を容易く掴まれてしまった私は、傷の箇所に舌を這わせられていた。まだ開いている傷口を抉られるような痛みに顔を歪めると、彼は満足そうに私の体を引き寄せる。

｢ね、言ったやろ？易々と男の部屋に来ちゃだめだって｣

私は思いきって彼の体を強く押した。まさか反撃するとは思わなかったのか、驚いた彼の力が少し緩む。私はその隙にその場から逃げ出し、広い廊下を小走りで進んだ。今まで見当たらなかった入浴場が目に入って、安心とともにどっと恐怖が押し寄せてきた。
火事場の馬鹿力ということわざを耳にしたことがあるが、危機的状況になると目的に辿り着けるのは本当なのかもしれない。

──────

｢あーあ、逃げられてもた…｣

そう言う彼の手元にはAの携帯が握られていた。咄嗟の出来事にすっかり取り返すことを忘れてしまっていたようだ。

｢ま、いっか♡｣

彼女の携帯を大事そうに握りしめた彼は、弾む足取りで自室に戻って行った。

──────

入浴場も例外ではなく静まり返っていた。
私の荒い呼吸だけが、だだっ広い空間にこだまする。
ぬるめのお湯が一連の出来事を連想させて落ち着かない。1度ネガティブになると考えすぎてしまうのが私の癖なのだが、案の定今の私はそんな状態だった。
シャオロンさんの恍惚とした表情も行動も言動も、何もかもが恐怖でしか無い。
とんでもないところに迷い込んでしまったのだ、と呑気にここを楽しんでいた私は我に返った。
髪から滴る冷えたお湯が顔を濡らし、頬を伝う。
私はこれから何をされるのだろうと考えると、とてもじゃないが正気ではいられなかった。

｢お湯熱くないか？気に食わんかったら言ってな｣

突然、脱水所の方から声がした。
よく通る声。シャオロンさんが追ってきた訳では無いようで、私はほんの少しだけ安堵した。

『丁度いいです。わざわざすみません』

まだ少し揺れる声で返答すると、声の主はそこから去ったようだった。
早く部屋に戻ろうと思っていたが、シャオロンさんとは部屋が近い為気付けば時間が経っていて、流石にのぼせてしまいそうなのでパジャマに着替えて入浴場を出ることに。
脱いだ服は置いて行っていいらしいので、一応丁寧に畳んで傍に置いておいた。
あまりもう人とは会いたくなかったが、不安な気持ちをかき消そうと、私は急いで入浴場を去った。