【歌い手】期待して損した。［２］

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｢お客さん……お客さん着きましたよ。｣


気づかないうちに眠ってしまったらしい。


家では寝れないくせにタクシーのなかは寝れるんだ……と自分に対して少し驚いた。



お金を払い、タクシーから出て荷物をトランクから取り出す。


2つの荷物のうち1つは衣類や日用品、もう1つは機材だ。

置いてこなかったのはまだ自分のなかで活動したい気持ちがあるからかもしれない。

ただ活動するにも名前や活動場所を変えるため、もう二度とあの世界に戻ることはないと思う。




空港のなかに入ってチケットブースに移動する。


北海道とかどうかな、海鮮美味しいし牛いるし。

逆に沖縄とかはカラッとしてて実質東京より涼しく感じる人もいるとか、あ、いやでも台風来るよな…なんて久しぶりにのほほんと考えていた。


元々私の家族は旅行をするのが好きだった。


私もそれに影響されてふらっとどこかに旅立っときもあった。



その度に歌詞さんとそらるさんに怒られてたっけ、心配かけるなって。



今はもうそうやって怒ってくる人もいないし、自由に行動できる。


『あの、今日出発の便で空いている便ってありますか？あ、日本国内で。』


少々お待ちください、と言って綺麗なチケット売り場のお姉さんが調べてくれた。

飛行機使うのなんていつぶりだろ、と考えていると調べ終わったのか空いている便を教えてくれた。


今日は普通の平日だしそこそこ空いている便も複数あった。


その中から1つ選んでチケットを買った。


出発まではあと何時間か時間があるし、朝御飯を食べに行こうと思い立ち、空港内にあるちょっとしたカフェみたいなところに入った。


お客さんは少ないが、それが今の私にとっては心地よかった。


1人だし、とカウンター席に座ってメニューを見る。

何にしようか、あれかこれかと悩んでいると前方から声をかけられた。


｢このAセット、おすすめです。｣


若い男性店員が私の開いているメニューのうちの1つに指を指した。


おすすめと言うならば食べてみよう、と素直に思いそれを頼んだ。



店内にはコーヒーをドリップする音と、柱時計のチク、タク、と脈打つ音が響いていた。

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