・ ページ41
・
「なにそれ、私にどうして欲しいの。」
Aの瞳は若干潤む。
頭の中だけで少し考えていたこと。
兵庫で再会して、また別れた後に襲った虚しさや寂しさを知ってしまってから、思いを伝える勇気をなくしていた理由。
侑に今ハッキリ言葉にされて、狼狽える。
それでも侑の前では泣きたくない、と手に力がこもった。
「いや。なんやハッキリせえへんなって思っただけ。」
「侑に関係ある？」
「あるわ。東京に近づいてく度に鹿島が浮ついてるからな。」
「……！」
ダン！と音を鳴らしてAの背後の壁に拳を叩きつける侑。
耳に侑の腕が触れるほどギリギリで、思わず目を見開いた。
「浮ついてるつもりは、なかった。……次の次、試合するかもしれないチームのこととかは、考えてたけど……でも」
「俺…らのことだけ考えてろや。東京のことなんか忘れろ。いらんねん。」
Aは頭が混乱したように目が泳ぐ。
頭のほんの片隅に黒尾や研磨がいたことは否めない。
しかし、ほとんどを稲荷崎のバレーで占めていたAの脳内はハチャメチャになっていく。
「……意味わかんない、どういうこと。私は侑たちの事しか考えてないよ、今。」
真っ直ぐに捉える瞳は乾ききっていた。
目の前の人間が何を考えているのか分からない。
Aはおそらく侑から向けられている得体の知れない怒りを消化しきれずに、困惑していた。
「その目、めちゃくちゃ嫌いや。心なんか普通やったら読めんのにイレギュラーや、みたいな目。」
侑は続けて言う。
「都合ええな。」
吐き捨てるように言ってから、Aから離れる。
ぼうっと壁を見つめるA。
侑はそれを横目にドアノブに手をかけ、廊下に出ようと扉を引いた。
「……っうおおお！？」
侑が力を入れる間もなく、扉が勢いよく開かれる。
押し出されるように廊下に出た侑は前のめりになりながら廊下の壁に激突した。
「さっきから、好き勝手言って……ほんとに人の話聞かないね。」
ずるずると壁にもたれ掛かりながら目線が落ちていく侑。
尻もちをついて見上げると、腕を組んで仁王立ちしているAが侑を見下ろしていた。
「県予選の決勝。いつも侑たちを見てるから、考えてるから私なりにひとつ答えが見つかった、私はそう思ってる。」
「……は、い」
「煽るのは対戦相手だけにしてよ、ムカつく……から、」
ガン、と音を鳴らして侑の顔の傍の壁に足を置く。
「……仕返し。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 181人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もちもち(プロフ) - みりかさん» (´•̥ω•̥｀)いつもありがとうございます！続編もぜひおって頂けると嬉しい限りです……！ (9月4日 19時) (
レス) id: f81301e636 (このIDを非表示/違反報告)
みりか - 爆泣きしました、、(´;ㅿ;｀) (9月2日 18時) (レス) @page49 id: 2c07cb6f0a (このIDを非表示/違反報告)
もちもち(プロフ) - TNさんさん» ありがとうございます！！お好みでよかった！！ (8月24日 10時) (レス) id: f81301e636 (このIDを非表示/違反報告)
TNさん - とても大好物です！（？） (8月21日 12時) (レス) @page28 id: 062c590937 (このIDを非表示/違反報告)
もちもち(プロフ) - みりかさん» ありがとうございます！コメント励みになります！頑張ります！ (8月20日 22時) (レス) id: f81301e636 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：keko184 | 作成日時：2024年8月12日 18時
