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県大会、決勝の舞台。
センターコートに立ち、アップをする彼らの後ろ姿は眩しく猛々しい圧を放つ。
「A。」
平津が円陣にAを呼ぶ。
選手の上着を片していたAは急いで大きな輪となっていく彼らの傍に寄った。
「「こっち。」」
「わ、」
侑と治がそれぞれ片手で招き入れる。
グイッと両手を掴まれて、全員の肩が組まれた。
「ここはスタート地点に過ぎん。絶対勝つで。」
「「「おう!!!」」」
平津の言葉の後に円の中心に向かって声が集まる。
風が吹いたようにブワっと轟くその圧を全身で感じ、円陣が解散してから腕を確認するととんでもない鳥肌を立てていた。
「Aちゃん。」
スターティングメンバーの整列中。
監督とコーチの傍にいるため、ベンチに座るAに話しかけるのは北だった。
北はAの前で膝まづく。
「!?」
「ちょっと触るで。」
するする、とジャージの袖を捲られ、腕が露になる。
鳥肌の立ったままのAの腕をガッと掴んだ。
「今のこの瞬間を普通やと思い。特別なことはやらんでいい、練習通りにやるから、みんなは。」
「……!はい。」
Aは戻っていく北の背中を見つめながら、畏敬の念を抱いた。
どれだけ感情の機微を読み取れるのか。
大会中、マネージャーをも含み一年生を精神面で鍛え上げようとする北にコート上に立つ平津は満足気に微笑んでいた。
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試合は1-1のフルセットに持ち込まれた。
第2セットを落とす形で追い込まれた稲荷崎は第3セットまでの時間を監督やコーチ、メンバー同士の声掛けをしながら過ごす。
Aはデータ表を見つめながらうーんと唸り言った。
「勝てる、よね。」
部員は一斉に何かを期待するようにAを見つめる。
次のAの言葉は、これまでのバレー知識と稲荷崎のバレースタイルをよく見て、さらにその先の相手の感情やプレーの機微を繊細かつ丁寧に解釈し最善策を提案するようなものだった。
耳を傾ける部員全員が、”なんかいけるかも”と思えるような、そんな一手。
万能では無い、ただひとつの捻りと実現可能性の高い王手。
「─────侑と平津さんなら、やれそう、だと思うんだけど。」
なによりも、”やって魅せて欲しい”と希うそのAの表情にピリリと手先に痺れを起こす。
「ああ、任せろや……」
侑は額に流れる汗を拭い、どこか気持ち良さげに口角を上げた。

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もちもち(プロフ) - みりかさん» (´•̥ω•̥`)いつもありがとうございます!続編もぜひおって頂けると嬉しい限りです……! (9月4日 19時) (レス) id: f81301e636 (このIDを非表示/違反報告)
みりか - 爆泣きしました、、(´;ㅿ;`) (9月2日 18時) (レス) @page49 id: 2c07cb6f0a (このIDを非表示/違反報告)
もちもち(プロフ) - TNさんさん» ありがとうございます!!お好みでよかった!! (8月24日 10時) (レス) id: f81301e636 (このIDを非表示/違反報告)
TNさん - とても大好物です!(?) (8月21日 12時) (レス) @page28 id: 062c590937 (このIDを非表示/違反報告)
もちもち(プロフ) - みりかさん» ありがとうございます!コメント励みになります!頑張ります! (8月20日 22時) (レス) id: f81301e636 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:keko184 | 作成日時:2024年8月12日 18時