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時刻は23時丁度。
Aの家まで肩を並べて歩く。
触れそうで触れない腕や手に互いの意識が集中しながらも、いつものようにたわいない会話を広げていた。
「────んでさ、やっぱ研磨は今の三年と全然合わなくてめちゃくちゃ萎縮してんの。難しいよね、新しい環境ってさ〜」
「そうだったんだ。研磨、自分の話あんまりしてくれないから聞けてよかった。」
「まあそれはあんたもだけどね。」
ガシガシと頭を乱雑に撫でられ、俯く。
「Aが元気そうでよかった。」
「クロも。」
Aはポケットを漁り鍵を取り出す。
家の場所の詳細を聞かされていなかった黒尾はその仕草を見てもうそろそろかと辺りを見回した。
「ここだよ。」
ちょん、と袖を掴んでアパートを指さす。
黒尾は視線をAの指先に向けて口を固く結んだ。
「クロ?」
「……ああ。いいとこだな。」
「テキトーじゃん。」
Aは不満そうに文句を垂れながら鍵穴に鍵を差し込む。
ガチャリ、と扉を開けて黒尾を招き入れた。
「お邪魔します……」
鹿島家の自宅には何度も行ったことがある。
ただ、Aだけが住むこの空間はなんだか雰囲気が違って少しの緊張をまとう黒尾。
「その辺座ってて。」
「おう……」
「ふふ、なんか緊張してる?」
楽しそうに笑うA。
黒尾はそんなAを不服そうに見つめる。
キッチンに立ってコップをふたつ取り出したAは、やかんからお茶をつぎ両手に持った。
「はい。」
「さんきゅ。」
片方を受け取る黒尾はまだ座ることなく部屋を見渡す。
「ねえ、あんまりジロジロ見ないでよ。」
「あ。あれ俺のハンカチじゃん。」
「……人の話聞いて。」
Aはハンカチの置いてある戸棚を指さす黒尾の目元を後ろから手で覆う。
黒尾はピタリと動きを止め、その手に自身の手を重ねた。
「Aさぁ……」
ふー、と深くため息を吐く。
そのまま手を掴み、Aの方へ向き直った。
「この距離感、誰にでも見境なくやってないでしょうね。」
「え。」
眉間に皺を寄せたAの表情。
「いや、クロとか研磨とかにだけだから……」
ありえない、とぼやきながらブンブン腕を振って黒尾の手から解放されたAはベットに腰掛けテレビをつけた。
コップのお茶を飲み、丸テーブルの上に置く。
黒尾はやれやれ、と言った表情で同じくコップを置くとテレビを眺めるAの髪を撫でた。

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もちもち(プロフ) - みりかさん» (´•̥ω•̥`)いつもありがとうございます!続編もぜひおって頂けると嬉しい限りです……! (9月4日 19時) (レス) id: f81301e636 (このIDを非表示/違反報告)
みりか - 爆泣きしました、、(´;ㅿ;`) (9月2日 18時) (レス) @page49 id: 2c07cb6f0a (このIDを非表示/違反報告)
もちもち(プロフ) - TNさんさん» ありがとうございます!!お好みでよかった!! (8月24日 10時) (レス) id: f81301e636 (このIDを非表示/違反報告)
TNさん - とても大好物です!(?) (8月21日 12時) (レス) @page28 id: 062c590937 (このIDを非表示/違反報告)
もちもち(プロフ) - みりかさん» ありがとうございます!コメント励みになります!頑張ります! (8月20日 22時) (レス) id: f81301e636 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:keko184 | 作成日時:2024年8月12日 18時