鬼になった青年の話【胡蝶しのぶ】

記憶のすれ違い ページ38

俺の血鬼術 雪化粧は、治癒みたいなものだ。

雪で全身を覆って、治癒をする。
完全に治るわけではないけど、動けるくらいには治せる。

だから甘露寺も時透も、今頃働いてるだろうな。


｢……｣


とりあえず怪我はさせた。
俺の鬼としての任務は今のところない。



シュンッ！



｢！？｣



俺はいつの間にか無限城に移動していた。
鬼舞辻が移動させたのか。



｢怪我はさせたのだな｣

｢ああ｣

｢次はどうするんだ｣

｢無惨様に任せますよ。
俺よりも策略家でしょう｣

｢先読みせよ｣

｢まだできないね。
この戦いで鬼殺隊が勝つか負けるかで
今後の歩みは大いに変わる｣

｢ふんっ。
口答えする者は許さぬが、貴様は憎たらしくない｣

｢そりゃどうもね｣


そして夜明け。
結果は、上弦が負けて鬼殺隊が勝利した。


｢こちらも力をつけねばな。
使えない鬼ばかりだ｣


鬼舞辻はとてつもなく怒り狂っていた。


｢俺が視察してきますよ｣

｢鬼殺隊が何をしているか調べてこい｣

｢はい｣


鬼舞辻に服従することに慣れてしまったかもしれない。

駄目なのに勝手に体が動く。


あの人のために俺は上弦となり、
あの人のために俺は仲間を犠牲にした。

あの人と生きたいから約束をした。



【鬼になったら、喰べてあげるよ】



｢……？｣


あの人って誰だ？

俺は、誰のためにこんなことしてたんだっけ？

誰のために服従してるんだっけ。



｢やあやあA殿。
最近鬼になったのに俺よりも無惨様に信用されてるねぇ。羨ましいぜ｣


｢……童磨｣


｢人間の時の記憶なんて捨てちまいな｣


｢……俺は親から逃げたんだ。
今生きているかも分からない親から｣


｢うんうん｣


｢それで誰かに拾われて……｣


｢無惨様だよ｣


｢え？｣


｢ね？｣


｢…………そう、か｣





俺は無惨様に、拾われたんだ。

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