4話 世界 ページ5
数分して、ポアロの来客を知らせるドアベルが鳴った。いらっしゃいと言う安室さんに元気よく答える若い声が2つ。その声に毛利さんはこっちだ!と手を振る。
気になることもあるが、まずは挨拶と振り向きそこにいた人物に、だしかけの声は引っ込み体の動きも止めてしまった。それほど驚いたのだ。少年の姿に、江戸川コナンという存在に。
ああ、ここはアニメの世界だったのか。
「おい、どうした?」
『‥‥え、あ。すみません。』
あまりにも不自然に固まっていたためか、毛利さんに心配されてしまった。すぐに何でもないふうに謝ったが、引っかかることがあったのか思案顔をしている。
「あの、もしかして父に依頼したという風見さん、ですか?」
『いえ、僕は』
「記憶を取り戻す手がかりを探してる数住さんだ。依頼主は別でもう帰ったぞ」
毛利さんの少ない言葉で色々と察したのか、深く事情を聞かずに自己紹介をしてくれた。察しの良さは流石探偵の娘さんだと思う。一緒にいたコナン君もよろしくお願いします、と丁寧な挨拶をしてくれた。
それぞれ注文し、食事が運ばれ、全員が食べ終わるまで様々な話をした。それは蘭さんの部活のことであったり、コナン君のお友達の話であったり、競馬やアイドルであったり。記憶喪失で話す話題を提供できない自分の代わりにいろんな事を聞かせてくれた。
コナン君が主人公のアニメはほとんど観たことがないからか、彼らが日常を謳歌しているからか、想像しきれないくらい沢山の人や場所の名前があげられた。かろうじて、工藤新一君のキャラクタービジュアルが思い起こせたくらいか。
ついさっき判明したここが異世界、なんていう荒唐無稽なはなし。自分が生き返っているのだから疑う気は起きてこない。ただ少し怖いとは思う。
異世界ならば僕の戸籍からなにまでありはしないだろう。知られたくない過去も秘密も暴かれることはない。ただ、過去がないという事実には足下がぐらつくような恐怖を感じる。それに、ここは秘密を暴くのが得意な名探偵がいる。なかったことも、前提を覆して暴いてくるかもしれない。
もし、僕の秘密が暴かれたら、と思うと怖いような安心するような不思議な気持ちになる。
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