プロローグ 怪しい人物 ページ1
「風見、昼はどうする?」
「自分は弁当を持ってきてます」
定期連絡を終えた昼過ぎのこと、降谷さんにお昼を誘われた。いつもならぜひにと二つ返事でついて行くのだが、今日はあいにく手持ちがあった。
「へぇ、ついに自炊するようになったんだな」
「あ、いえ。これは同居人が」
「同居人?」
眉を寄せる上司にしまったと思う。潜入捜査を行っているからと、余計な心労はかけまいと黙っていたのだ。しかし、この人はそういった気遣いは好かなかったはず。
「事情を聞いても良いか?」
ああ、聞かれると思った‥‥!
「その、なんというか、」
「なんだ、歯切れが悪いな。言いたくないなら別に」
「そういうわけでは‥‥。その、道ばたで倒れているところを保護しまして」
「‥‥」
眉間のしわが増えている‥‥!
「続けろ」
「病院に連れて行ったところ記憶喪失らしいことが分かり」
「記憶喪失、ほお」
「看護婦に上手いこと丸め込まれ面倒を見ることになりました」
「丸めこま‥‥、それは警察官としてどうなんだ」
返す言葉もない。
あの男、記憶喪失のわりに人なつこく、看護婦の方々にとても可愛がられていたのだ。そしてどういうわけか、一人だったり、知らない人と生活するよりはと押しつけ‥‥保護先に選ばれてしまった。
職業柄、家にいないことが多いから自分は無理だと言ったが、聞く耳を持ってもらえず。挙げ句の果て、本人に一人でも大丈夫ですよと気を遣われ、看護婦からの可愛そうコールが激化する始末。
「‥‥まあ、相手が悪かったんだろうな。僕もおそらく太刀打ちできないだろうし」
その後、降谷さんも弁当を持ってきていたらしく、公園で食べることになった。
「その同居人の身元はわかっているのか?」
「いえ。手がかりがあっても別人に行き着くことがおおく」
「‥‥怪しくないか?」
「実際、怪しいところだらけです。銃創が複数あるうえ拷問痕までありましたし。発見当初は重度の貧血であったのに、持病を持っているわけでも大怪我をしているわけでもありませんでした」
医師にはよく生きてたよ、なんて言われていた。
「よく家に入れたな」
「危険性はないと思いまして」
「勘か?」
「勘です」
名前は?と軽く聞かれ、思わず驚いてしまう。
「数住Aですが‥‥まさか」
「ポアロでそれとなく聞いてみるよ。期待はするなよ?」
「ありがとうございます!」
申し訳ない気もするが、上司の厚意に心の底から感謝した。
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