「伊野尾ちゃん」 ページ9
ym side
あれから 屋上で頭を冷やし、本能を抑える方法をずっと考えていた。同じαだし何か知ってるかもと思って薮先生にも聞いてみたけど、先生曰く、相性の良いΩと会ったαは誰でも経験することで それに抗う薬は無いから自力で抑えるしかないってさ。
自分のことをコントロール出来るのは自分だけ、か。
そんなこんなで色々と考えを巡らせている間に あっという間に迎えた放課後。知念と裕翔には先に帰ってもらい、俺は終礼が終わると同時に先輩の居る階に向かった。
もう二度と本能に飲まれるようなことは繰り返さない。あのオメガ女みたいにならない為にも、伊野尾先輩を傷付けない為にも。実際に先輩を前に謝った時、そう改めて心に誓った。
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伊野尾先輩を傷付けたくない、って何故そう思うのかは分からない。
そして、急な呼び捨てにドキッとしてしまったのはもっと分からない。
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少しだけ胸が高鳴ってしまったことを悟られないよう目線を逸らしながら言葉を続ける。
「でも、あの時 伊野尾先輩って呼べって」
『あー、その時はそういう気分だったんだよ』
「適当なんすね…」
『まあまあ、細かいこと気にすんなって』
『ほら、呼んで?』
俺の頬に長い指先が触れ 顔を背けることが出来ないままばっちりと目が合う。期待の込められた目線を感じ、これは呼ばざるを得ない状況だと察する。
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「… いのお、ちゃん」
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『よし、これからそう呼ぶよーに』
そう満足気に笑い、俺の頬から手を離すと、先程とは違う優しい手つきで再び頭を撫でてくる。
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この甘い感覚…
それは、先輩がオメガだからそう感じるのか。
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って、見惚れてどうすんだよ。それに 帰る途中で急に押し掛けといて 更に時間を取らせる訳にはいかないっしょ。
軽く彼の手首を掴んで 自身の頭から離し、「… じゃあ、俺はそろそろ帰ります」と一言告げて帰ろうとした途端にぎゅっと掴まれた腕。
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『… あのさ、山田にひとつ聞きたいことあって、』
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作者名:猫 | 作成日時:2023年3月1日 20時