７２。 ページ38
. キヨside .
「いやあ、まだ夜は冷えますねえ。あら、お連れさん寝てるの？ほらこれ、使って」
「ありがとうございます」
タクシーの運転手が物腰が柔らかく優しい人で、ブランケットを貸してくれた。
Aさんの身体にかけて、酔っていた俺は無意識のうちに手を握っていた。ブランケットに隠れて繋いだ手は暖かくて、俺まで眠くなる。
「ここら辺で大丈夫ですかね」
ひとりで至福のひと時を味わっていると、自宅近くに着いてしまったらしい。
Aさんの家の方が近かったのに、俺の家の住所を伝えてしまっていた。
酔いのせいで、全く頭が回っていなかった。
「Aさん、起きて。ほら」
意外とすんなりと目を覚ました彼女は頭までは働かせられないようで、言われるがままタクシーを降りてくれた。
ギリギリ自分の足で歩ける程度のAさんが転げそうになるのが想像できて、手を差し伸べる。
「ん…」
眠そうな目には俺の腕が木の幹に見えたのか、全身で腕にまとわりつくコアラになるAさん。
いやまて、さすがに可愛すぎる。
「ちょ…！まだ外…！」
ほぼ全体重を乗せられたまま、なんとか扉を開けて家に入れる。
今日はソファで寝ればいいか、と考えながら寝室に向かう。
「着替えさせた方がいい…のか？」
少し考えた挙句、シワになりそうなジャケットだけ脱がせて、ベッドに横たわらせる。
気付けば彼女はまた夢の中で、小さな寝息だけを響かせている。
喉が渇いたから冷蔵庫に水を取りに行くと、俺の思考は何故か突然冷静になった。
やっぱり家に帰すべきだよな。
起きたらすぐに家に帰そう。そう決めて、ペットボトルを1本持って寝室に戻ると、Aさんは変わらず幸せそうに眠っていた。
恐る恐る、生まれたての子猫をはじめて触るように彼女の頭を撫でる。
低めのベッドだから床に座って、肘をついて寝顔を眺めると、それだけで満たされる。
「今なら、許されるよな…」
顔の横に添えられた手のひらに、また自分の手のひらを重ねる。
さっきとは違う、謂わゆる恋人繋ぎというもの。
「うわ…これ、やば…」
人間、幸せを感じていてももっともっとと欲望は深まるもので。
触れたいと思ってはいけないのに、もっとを求めてしまう。
ぼーっと彼女の寝顔を眺めていたら、インターホンの呼び鈴に起こされるまで熟睡してしまった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 311人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「実況者」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちゅ〜る - 更新してくれてありがとうございます！更新されてるのを見て嬉しすぎて叫びたくなっちゃいました、もう内容が好きすぎて...！お忙しいと思いますが更新頑張ってください！心から応援しています(o^^o) (2021年2月17日 0時) (
レス) id: cb42e8d372 (このIDを非表示/違反報告)
Malia(プロフ) - 遅コメ失礼致します(о´∀`о)めっちゃ好きなんですが心臓が持ちません_(┐「ε:)_主様は今お忙しいのかな…?夜しか眠れないほど続きが楽しみです(●´ω｀●) (2020年9月20日 2時) (レス) id: b99f87fcb7 (このIDを非表示/違反報告)
Misya - 突然のコメント失礼します!ぴより様のストーリーが好きすぎて、ファンになりました！更新頑張ってください！ (2020年3月1日 19時) (レス) id: 6862801167 (このIDを非表示/違反報告)
ぴより(プロフ) - にぼしさん» コメントありがとうございます…！！にぼしさんの性癖に刺されて嬉しいです（；＿；）！更新遅くて申し訳ないですが気長にお付き合い頂けたら嬉しいです！！ (2020年2月20日 22時) (レス) id: f82d25de14 (このIDを非表示/違反報告)
にぼし(プロフ) - 突然のコメント失礼します…ぴより様の書かれるれとさんが性癖過ぎてしんどいです…更新頑張ってください！ (2020年2月9日 23時) (レス) id: 6acb1113f7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぴより | 作成日時：2019年11月6日 23時
