人 質 【4】

Ep.１７１ ページ30

side Ogata





(───先生、泣いてた･･･)




あんなに静かに泣かれると、どうしていいか分からなくなる。


しばらく背中や頭を撫でたり抱きしめたりしてみたけど、
突然顔をあげた一颯先生はもう全然泣いてなんかなくて。

大丈夫？しんどいの？ って、
何聞いても笑ってまともに答えてくれなかった。


「１回郡司さんに会ってこい」、とだけ言われて、
ハッチのロックを解除されて梯子を降りたはいいものの。




『･･･なに、話していいんだか』




本職の刑事さん目の前にして、思わず正座である。




「大きくなったなァ」

『そりゃ、10年越しですもん』

「敬語まで使えるようになっちまって。
“おじさん、怖い” って拒否されてたあの頃が懐かしいな」

『･･･その節は申し訳ありませんでした･･･』




正直未だにコワイ。

けれど、それは “現職警官を人質にとっている” という事実が、であって。




「どうして、柊に協力してるんだ？」

『どうして、･･･』




あまり考えたことなかった。




『･･･先生のため、かな』

「あいつの？」

『･･･もう、長くないって』




わずかに目を見開いた郡司さん。




『同情したわけじゃないです。
ただ、先生が残り少ない命全てを賭けてまでも
私達に伝えたいことがあるんだ、って』




あんなにフラフラになって苦しんでても、
先生の目は光を失ってなかった。




『澪奈は望んでないかもしれない。
でも、このままじゃ第二、第三の犠牲者が出るって言ってたから。
なのにこのまま見過ごすわけにはいかないでしょ？』

「･･･そうだな」




やっぱり郡司さんは、話せばわかってくれる人だ。
同じような思いをしたからなのかもしれない。

悪意にまみれたナイフで
罪のない弱者を傷つけられた、過去が。




「そろそろ、戻った方がいいんじゃないのか？」

『･･･あ、ほんとだ。
じゃあ戻ります』




またあとで、と残して 資料室を出た。





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