人質【4】 (ページ29)

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Ep.１７０ページ29

side Hiiragi

携帯のバイブ音で目が覚めた。

右側に温もりを感じて視線をやると、俺に擦り寄って眠るAの姿が。
思わず笑みが零れた。

振動を続ける携帯に、“S” の文字。

安心したように寝ているAを起こしたくはなかったから、宇佐美と茅野にだけ席を外すように伝えて、電話に出た。

「･･･はい、」

《･･･体の方は、大丈夫かい？》

「えぇ、なんとか･･･」

《予定より少し早いけど、例の動画をアップした。
･･･警察が来てるんだ。これから出頭する》

「･･･そうですか･･･。すみません」

《君が謝る必要は無い。
･･･私や五十嵐さんが君に協力したのは、もうこれ以上、文香や･･･景山さんのような犠牲者を出したくないからだ。
･･･これで、何かの一石を投じられたんなら、･･･それは意味のあることだと思ってる》

閉じていた目を開けると、Aが目を覚まして俺をじっと見つめていた。

その瞳は、不安そうに揺れていて。

･･･そうだよな、Aも今まさに、文香や景山のように、悪意に塗れたナイフで傷つけられようとしているんだよな。

携帯を耳にあてたまま、逆の手でAの頭をくしゃりと撫でた。

俺が電話中だからと、気を遣って出ていこうとしたけれど、その手を掴んで引き止めた。
･･･なぜかはよくわからない。

《 ───私は、田中がガルムフェニックスを君に譲るって言ったとき、反対したんだ、時期尚早だって。
･･･でも今ならわかる。君は、その価値のある男だった。
･･･文香の心に寄り添ってくれて、ありがとう。
次の犠牲者になりかけているあの子を、守り抜いてやってくれ》

そこで、電話は切れた。

しばらくは、呆然として携帯を眺めることしかできなかった。

『･･･せんせ、？』

きょとんとした表情で俺の顔を覗き込んでくる。

『ッわ、と･･･ッなに、？』

たまらなくなって、その腕を引き寄せる。

その細い肩に顔を埋めた。

『一颯先生･･･？』

守るから、今度は絶対に。

もう少し、もう少しだけでいいから。
全部終われば、もう忘れていいから。

静かに泣く俺の頭を、ゆっくり撫でるA。

･･･今は少し、甘えさせて欲しい。

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