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私はぼんやりと過去に沈みかけていた。
「……ナ、ヌナ!」
少し強めの声に、はっと現実へ引き戻される。
「……え、なに?」
「だから! もうやめてくださいって言ってるじゃないですか! 髪の毛、ぐちゃぐちゃです!」
言われて初めて、
自分が無意識にスングァンの頭を撫で続けていたことに気づく。
「あぁ……ごめんごめん」
手を引っ込めると、
スングァンはむすっとした顔のまま鏡の前へ移動し、
丁寧に髪を整え始めた。
「もう……せっかくセットしたのに。ボサボサじゃないですか」
ぷりぷりと文句を言うその背中を眺めながら、
私はワイングラスを傾ける。
赤い液体が喉を滑り落ちる感覚だけが、
やけに鮮明だった。
その様子を横目で見ていたスングァンは、
何か言いたげに口を開いては閉じる。
しばらく逡巡したあと、ぽつりと呟いた。
「……ヌナは知らないかもしれないですけど」
鏡越しに、彼の視線がこちらを捉える。
「ヒョン、ずっとヌナのこと大好きですよ」
「……それはどうかな」
軽く笑って返すと、スングァンは即座に首を振った。
「ほんとですって。今でも、お酒飲んで気分良くなると、ヌナの話しかしないですもん」
「へぇ……それ、私に言って大丈夫なやつ?」
「いや、バレたら普通に殺されます」
「じゃあ私、犯罪の片棒担ぐことになるかもね」
冗談めかしてそう言うと、
スングァンは怪訝そうに眉を寄せた。
「どういうことですか?」
私はグラスを置き、顎で後ろを指す。
「……後ろ、見てみな」
その一言に従って振り返った瞬間、
スングァンの顔から血の気が引いていくのがはっきりと分かった。
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作者名:チューペット | 作成日時:2025年12月8日 14時


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