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思ってもみなかった理由だった。
自分を置いて出て行ったわけじゃなく、ただ黙って背中を押そうとしてくれていただけだったなんて。
「……ヌナのせいじゃないよ」
かすれた声で答えると、ヌナは「そ?」と笑う。
その笑みが、やわらかくて、温かくて、また涙腺が緩む。
「ねぇ、ドギョマ。」
「……なに?」
「人よりうまくいかない日があったからって、ドギョマの価値はちっとも減らないよ。
むしろ今日みたいに悩んで、泣いて、ちゃんと向き合おうとするドギョマは……すごく、いいアーティストだと思う。」
その声は低くて、優しくて、まるで胸の奥を直接なでられたみたいだった。
「……ほんとに?」
「うん。だってドギョマ、今日ずっと頑張ってたじゃん。声が揺れたのも、高音が上手くいかなかったのも、全部“ちゃんと歌おうとした結果”でしょ? それって絶対無駄じゃない。」
ヌナがそっと、自分の目元に触れた。
落ちそうになっていた涙を指先でぬぐいながら、まるで子どもを慰めるみたいにゆっくりと。
「それにね。上手くいかない日があるから、上手くいく日の価値が何倍にもなるの。……ドギョマには、その“何倍にもなる日”が必ず来るよ。」
胸の奥に少しずつ空気が戻ってくる。
張り詰めていたものが溶けはじめて、代わりに温かいものがじわりと満ちていく感覚がした。
「ドギョマ」
「……うん」
「メインボーカルなんだもん。泣きながらでも立ち直る力、ちゃんと持ってるでしょ?」
そう言ってヌナが自分の髪をくしゃっと撫でる。
その仕草があまりにも優しくて、胸の奥がまた熱くなった。
「……頑張るよ。もっと、頑張る」
「うん、知ってる。ドギョマならできるよ。」
ヌナが微笑んだ瞬間、
崩れていた自信が、少しだけ形を取り戻した気がした。
「明後日、撮り直し。調子は絶対今日よりいいよ。だから今日はもう休憩ね?」
「……うん……ヌナ……」
「んー?」
「もうちょっとだけ……このままでもいい……?」
「好きなだけどうぞ。今日は特別サービスね」
そう言われると、胸の奥の緊張がすぅっと溶けていく。
ヌナの膝に頭を預けたまま、ドギョムはソファに腰をずらし、甘える子どものように横になった。
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作者名:チューペット | 作成日時:2025年12月8日 14時


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