まごつきの森【d】

5.疑心 ページ5

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｢じゃあ…行ってくるな、A｣


ロボロと名乗る男は、最後までこちらに手を出さなかった


それが逆に怖かった


『人狼を下手に信用しちゃいかんよ』


実際に人狼の襲撃に遭った村から逃げてきた人から聞いた


彼から悪意は感じなかったが、悪意よりも怖いものを感じた



信じないほうが良い、本能が拒絶している


｢…ここを出よう｣



__


｢はぁ……はぁ…｣


ロボロさんが行った方向とは真逆の森


終わりの見えない一本道を、ひたすら進み続ける


まだ体は動いているが、いつ先程の症状が襲ってくるのか


呪いを抑える効力がいつまで続くのかもわからない


道中でなにか食べ物を発見できたら良いのだが…





ガシッ


｢うぁ？！｣


突然、ナニカに足を掴まれた


一定だったリズムが崩れ、地面に体を打ち付ける


吹き出すような笑い声と共に、体が圧迫された


｢ふははは、必死に走っとった割には筋肉弱いなぁ｣

｢…っ｣


不愉快な煽り、見下した態度


何者かに背中を踏みつけられている


完全に悪者を捕まえる時の構図だ


必死に暴れてみるも無駄で、完全に拘束されてしまった



狩人のフードを取られ、更に頭を押しつけられる





｢ぇ……ニンゲン？！｣


その瞬間、突然大声で慌て出した男



今の言い方、男の正体は"魔物"で間違いないだろう


｢お、俺、ニンゲン見たの初めて……お前ニンゲンやろ…？｣

｢…そ、そうです｣


…やはり、私はこの世界で珍しい存在らしい


魔物が感心している間も、私の体は悲鳴を上げている


手違いの獲物なのだとしたら今すぐに解放してもらいたい



｢なあ、なんで抵抗せんの？｣

｢……｣



抵抗しても、全く歯が立たないのだ

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