勿忘草の丘 ２.【オリジナル長編物語】

83話 町内一周の前に ページ38

「うおーい、Aー！！」

「あ、もう来たんだ」



私が想い耽って空に手を翳していると、どこかから一矢の声がした。

さっきまで座っていた石から立ち上がり、辺りを見渡す。あ、一矢が道路で手を振ってる。

小さいから気がつかなかったわ。

おっと、他のみんなも後ろから歩いてきている。早く門の前まで行こう。



「体力作りのために町内一周か。よくやるなぁ」

「この辺りは車が多いし、私らの世界に来てから走った方が楽しいと思うけどな」

「はいそこ、文句言わないでください」

『へいへい』



雷華さん達の文句は御構い無しに、アレンは話を進めていく。

日程の確認だけは一矢よりもしっかりしているアレンは、今日の日程をペラペラと喋っている。

現在９時５９分。今から町内をジョギングで一周した後、１１時半頃まで魔法の練習。一旦家に

帰って昼食を取ったら、今度は１時半に水峰寺に集合して魔法の世界へ行き、澪に会いに行く。

澪はまだ、魔女になってないから。私がその姿を見届けてあげるんだ。

知ってる人といた方が、彼女だって安心できるでしょ？

一矢はどうだったか知らないけど、一応世羅が付き添いしてたみたいだし。

やっぱり、あんな簡単な作業でもひとりだけだと心配なものだから。



「勇助、走ってる間に魔法術のしりとりしようぜ」

「うん。その方が疲れないし、楽しいだろうね。全員でやる？」



走っているだけだとそれに集中しすぎてすぐに疲れてしまうのを、一矢は知っている。

だから、それを紛らわすためにしりとりをやろうと言うのだが、魔法術限定はキツすぎる。想像

だけで出来ると言われただけで、技の名を教わった覚えは無い。

今朝言ったエクスプロージョンだって、何処かのゲームで聞いた事があるだけだし。

なんたって想像だから。



「いや俺、そういうのは詳しくないんだ。なんでもアリならやってもいいけど……」



ほら、先輩魔法使いの世羅だって知らない。彼の基本的な戦闘方法が銃とジャックナイフだけだ

っていうのも一種の問題なんだと思うけど、しりとりが普通に出来る程魔法術の名称を知ってる

人なんて、日之影家の三姉妹くらいじゃない？

それに、一矢だってそんなに知らないじゃない。昨日魔法使いになったばかりだし。



「やっぱり、なんでもアリにするか」



そんなこんなで、私達はなんとか町内を一周したのだった。

あぁ、足が棒になりそうだが、脇腹が痛くないだけマシか。

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