勿忘草の丘 ３.【オリジナル長編小説】

120話 覚醒の予兆 ページ30

【勇助 視点】



僕は３班の中でたったひとり陸上部へ仮入部したから、土曜日は学校に行かないといけない。

あっちの世界に遊びに行っている皆の元を離れて、僕は５月に近づく暖かいそよ風に背中を押さ

れながら学校に向かった。

何故か世羅が普通に隣に立って(浮遊して)話しかけてくる。あっちの世界の事はどうしたの。

あの件もあったから疲れているんだろうけれど……

でも、世羅って案外可愛い所もあるから、たまに甘やかしてあげたくなる。

結局彼に怒られてしまうんだけど、そんな所もツンデレな気がして可愛らしい。



「おはようございます！」

「おはよう。 １年は元気が良いな！」



正門前で通りかかった先生に挨拶をして、部室前まで走る。

理由は分からないけど、僕は昔から走るのだけが得意だった。一週間前、クラーレさんの家へ向

かった時、僕は道端に生えたキノコに夢中だったけど、すぐ追いついたし。

それが、僕と苗字が同じ森野という神様と関係しているのだろうか。

いつの間にかそんな考えもすっぽかして、僕は部活の練習に没頭していた。

数十分後、理由もない息苦しさとめまいに襲われるまでは。



「……っはぁ、ぅ………」

「大丈夫か勇助！？ せ、先輩、勇助がっ！！」



異変を感じた部活の友達が、僕のそばに駆け寄って助けを呼ぶ。

その異変は、本当に前触れもなく、唐突に起こったものだった。

すぐ目の前が暗くなり、僕の意識はぷっつりと途切れてしまう。

Aさんが倒れた時も、同じ感じだったのかな……



身体がゆさゆさと揺らされている感じがして、目を開ける。

白い保健室の天井と同化しかけた白髪。髪の持ち主は、登校中に僕の隣にいた世羅だろう。

魔法は使っていない様子だから、黄昏色に染まりかけた毛先は何処にも見つからない。

そういえば、彼は練習中に僕のそばにいなかったな。

本当はその事を世羅に聴いてみたかったんだけど、なにしろ身体が怠いもんだから、唸り声とか

簡単な返事しかできない。



「勇助、もう昼だぞ。みんな帰る準備してるぜ？」

「ん……」

「さっさと起きんかチミ！」

「ふふっ」



彼は声を低くして保健室内の空気を和ませた後、窓辺によって僕を見つめる。

逆光で若干暗くなったその顔に先程の笑みは見当たらない。日に当たった絹の様な白髪を反射さ

せて、見る方向によって薄い黄や青に色を変えている。

急に真紅に染まった瞳が、僕を捕らえて呟いた。



「森神の覚醒か……」

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ラッキーカラー

あずきいろ

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