勿忘草の丘 ３.【オリジナル長編小説】

106話 失わないという誓い ページ16

【百合亜 視点】



ため息をついて、私はエルティエの魔導書を本棚にしまう。

机の近くにある窓に紫の瞳が映り、銀色の髪が反射した。

お母様の瞳と、お父様の髪色。私は双方の姿を継いでいる。

襲撃は今回で４回目。東部の一部の住宅街が破壊されたけど、前よりも被害は小さかった。

それでも死傷者が出たことに変わりはなく、家族を失った悲しみに暮れるていたはずの人々が、

私の家を後にして帰って行った。

でも、彼らの背中に、暗い感情はあまり無いような気がしたわ。

彼らはまだ諦めていない。数年に一度、悪霊が街を破壊するのに、それを恐れていない。

また作り直せばいいと言ってくれる。街の復興に協力してくれる。

何処からそんな元気が湧いてくるのか分からないけれど、彼らの優しさがあったからこそ、この

街は何度もやり直す事ができたの。

前の襲撃で街を出ていってしまった人も、あっちの世界で喫茶店やアパート経営をしながら私達

を助けてくれる。

やっぱり、この街の人々には感謝しかない。

日之影家やフェアヴァルト家も、街の皆に信頼されている分努力しなくては。

もうこれ以上、幸せを失いたくないから。お母様も、お父様も、友人も失くしてしまったから。



「ただいまー！」



雷華が帰宅した時には、大きな開閉音と共に彼女の無邪気な声が聞こえる。まるで、遊びから帰

ってきた子供の様に。まぁ、雷華と私はもう１７歳だけど。

私はよく開閉音の事を彼女に注意する時、元々の性格せいか冷たい表情と冷めた口調で接してし

まうけど、本当は彼女が大好き。

だって、雷華は私と初めて友達になってくれた子だから。

私がどんなに素直じゃなくて、引っ込み思案で、泣き虫でも、雷華は私のそばにいてくれた。

もしかしたら、素直じゃないのは世羅の方が勝るかもしれないけど。

幼い頃のあの日の様に、ずっと一緒にいられたらどんなに幸せなことか。

いつか私が素直になったら、"ありがとう"って言いたい。

あぁ、考え事してないで早く皆を出迎えないと。



「おかえりなさい。ケミストリーの街はどうだった？」

「道に迷って賊に捕まったんだ。大変だったぜ」

「悪運が強いのね」

「それな」



今日はクラーレさんも来ている。ルピナスは留守番かしら。

くじ引きであの子が果物の詰め合わせを当てたみたいだから、後で切りましょう。

全部終わったら皆でフェアヴァルト家に行くわ。

あの子達より少し年上の、林檎好きの子がいるから。

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ラッキーカラー

あずきいろ

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