勿忘草の丘５.【オリジナル長編小説】 (ページ44)

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224話そっくりさんを探してページ44

【世羅視点】

朝日が昇る雪山の麓の峠、まだ冷えている空気が心地よい。

ようやくAが帰って来て、俺の目と鼻の先には歓喜の声をあげる輩が沢山いるんだが、俺に

は少し引っかかる事があって。

あの長身の槍術士の陰に隠れている、俺と同い年くらいのアイツだ。

初対面かつ顔すら見たことがない相手のはずなのに、何か思い出せそうな気分になってしまうの

は何故だろう。つっかえるような感覚に不快感をおぼえ、出来るだけ周囲に気づかれないように

眉をひそめた。どうにも頭の中がモヤモヤして、あいつから目が離せない。

Aが帰って来たのは喜ばしいことなんだが、どうにも払いきれないこの感覚は、新しい仲間

ができたことに緊張しているだけなのか。それとも、後々悪いことが起こるという予兆なのか。

ただならぬ不安を振り切ろうとした俺は、偶然眼中に入った涙ボクロの少年に声をかけた。

「おい一矢、Aに会いに行かなくていいのか？早いとこくっついちまえよー」

「なななな、今はまだいいし！後で皆が落ち着いたら聞くんだよ…… って、なんで告ったこと

知ってんだよ世羅ァ！？」

「あ、お前ホントに告ってたんだ」

「………は？」

「林の探索の時にやったのかなーとは思ってたが、実際はどうだろうかと」

「世羅テメェェェッ！！」

「いやいやいや、今回は読心術なんて使ってないからな！？」

まぁ、顔を真っ赤にした激おこモードになってるから、そんな言い訳が通じるはずもなく。

今更そんな事がばれても特に問題ないような気もするが、こいつらの関係がきちんと成立してい

ないとなれば、Aが一矢を振る確率もゼロでないとはいえない。多分大丈夫だろうけど。

仮にＯＫが貰えたとすると、あの臣下達との話し合いが終わった後、しばらくは２人だけの時間

を作ってやりたいんだよな。

Aに関する何かしらの用件は、早いとこ済ませておいたほうが良さそうだ。

……そういえば、アレンのやつは一体何処に行ってしまったのか。結局、バトラーを送った時に

はアレンと会えず、俺はそのまま家に帰ったから、今日はあいつの姿を見ていない。

あの時屋敷にいたミリヤは、アレンは先に帰ったとか言ってたけど、実際はどうなんだろう。

もしかしたら恥ずかしがって、その辺の木の下の岩陰に隠れてるかもな。

Aやその臣下の人と家に戻ることになるのは、澪達が落ち着いてからになりそうだし、先に

アレンを見つけておこう。