勿忘草の丘５.【オリジナル長編小説】 (ページ36)

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216話暗闇の中の足音ページ36

「それではA王女、御手を拝借」

「いやいや、そこまでしなくてもっ！」

色褪せたパステルグリーンの軍服に着替えた私達は、夜中にこっそりと部屋を抜け出した。

カエイの手を借りるのは王城に出てからでいいとしても、月明かりさえ雲に隠されているサイネ

リア王国では、あまりにも視界が暗すぎて足元が危険。

勿論消灯の時間はとうに過ぎていて、周囲を照らす明かりはない。

しかし、誰かに勘付かれてもいけないので、念のため持ってきていた青い懐中電灯もここでは点

けられず…… さっきも階段でつまづいてしまった。音もできるだけ出したくないのに。

正直、暗闇から誰かに見られているような気がしてならない。多分気のせいだと思うけど。

「最大の難関は王城の門をどのようにして通るかでしたがー…… 良くも悪くも城壁に穴が空いて

しまいましたので、今日はここを通ってしまいましょうー」

「じゃあ、城壁の中の廊下を通っていかないと。確か２階だったよね？」

「はいー。余程のことがない限り、この先も安全に外へ出られるはずですー」

「おいサミダレ、王城から出たら魔符を出せ。馬に乗って南西へ向かうぞ」

「はいはいー、ちゃんと持ってますよー」

馬という単語に若干戸惑いを感じながら、私は城壁の崩れた石レンガに足をかけ、一歩一歩確実

に降りていく。クライミングはあまり得意ではないのだが、ボロボロといえど規則正しく並べら

れている石レンガの隙間に足を引っ掛けて降りていくのは、不規則な形で散らばった足場よりも

よっぽど安定している。

これで命綱があれば完璧だったのだが、２階から降りるのであれば特に心配はいらないだろう。

そもそも、この状態で贅沢なんか言ってられない。今は脱出を優先しなければ。

そのまま事は順調に進むと思っていたが、最後にサミダレが壁から降りようとした時、偶然通り

かかった見回りの王城兵に見つかってしまった。

「……おい、そこにいるのは誰だ？」

『！？』

ああああああ、こっち見てる……！！

私達の顔を確認するために、見回り用の小さなランプを前に突き出そうとする謎の王城兵。

私は咄嗟に軍服のフードを被り、アイビーの後ろに隠れた。目を閉じて、怖い兵士が素通りして

くれるのを待つ。

「消灯の時間はとっくに過ぎているんだ、さっさと戻れ」

「……」

「おい、聞こえないのか。寮に戻…… グホァッ！？」

何かが落ちたような、鈍い音が聞こえた。