検索窓
今日:2 hit、昨日:3 hit、合計:4,476 hit

206話 思い出せない声と顔 ページ26

【雷華 視点】



いくつかの小さな裏道を通り抜け、なんとか王都の外に近い所まで来た。

あともう少しで外へ出られる。しかもこの辺にはあまり人がおらず、特に襲われる心配もない。

本当なら喜ぶべきなんだが、私にとってはそれどころじゃなかった。



「………やっぱり、この道に繋がってたんだな」



乾いた砂埃が夏風に吹かれ、荒れ果てた海の都の白壁を黄色に染め上げる。

地面にはやはり、ざらついた赤レンガが敷き詰められていて、それは幼い頃に彼女と走り回った

時よりも色褪せた風景になっていた。

薄い赤色、橙色、焦げ茶色のレンガを踏みしめる度、心の奥が酷く締め付けられる。

あの時あんなことをしていなければ、と後悔し続ける日々。結局どうにもならず、紗羅達と遊ん

だり、余った時間を仕事に費やしたりすることで気持ちをはぐらかしてきた。

あの百合亜にだって、自分の過去の事は話していない。人に言えるようなものでもないからだ。

まして、思い出す必要もない。早く消し去ってしまいたいんだ。

この先、自分の絶対領域を越えてくるような奴は現れないだろうし。



「やったねらい姉! これで外に出られるわよ〜! ……って、らい姉?」

「ん? あぁ、大丈夫だ。早く行こうぜ」



おっと、ぼーっとしすぎてたか。早く皆の所に行かなきゃな。

でも、去ってしまうのはどうにも名残惜しい。"あの日"と違って町が快晴の青空で、荒廃してボ

ロボロになっていることだけが救いだ。

いや、皆が待っているんだ、何も考えずに先へ進もう。

消し去ってしまいたいなら、わざわざ思い出す必要もない。

なのに、それなのに思い出さずにはいられなくて、何度も視界がくすんだ。

何故思い出してしまうのか、理由も分からぬまま、私はそっと目を閉じる。

随分と前に砕け散っていたであろう白壁の破片を踏みしめ、小さく両手を広げながらその場でく

るりと回ってみれば、ついさっきあった出来事のように少女の声が聞こえてくる。

さっき見た夢の続きを、見たいような、見たくないような。

どうしてもやり直したい事があって、静かに目を開いた。

目の前には、あの子がいる。

彼女の表情は毛布のように温かいが、口から出されようとしている言葉は刃物のように冷たい。



『私って、そんな声してたっけ。ホントにこういう性格だったの?』



身体全体が、大きく脈を打った。

もう、声どころか顔も思い出せない。名前なんか聞いた覚えもない。

お前は……?

207話 白い花を握る左手→←205話 王女達を残して


ラッキーカラー

あずきいろ

4. までのキャラが扱える楽器をご紹介!《共通点も考え中》

シネラ:???…… まさかのオリジナル楽器です。ネタバレになりかねないので???状態。


目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 8.5/10 (19 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
2人がお気に入り
設定タグ:シリアス , 魔法 , 恋愛   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:さやや | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8211/  
作成日時:2017年8月12日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。