勿忘草の丘５.【オリジナル長編小説】 (ページ1)

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181話黒ずくめの正体ページ1

事件は突然起こった。

私とアスターとカエイとサミダレ、４人で休憩をしていた時のこと。

グリント兄さんが途中から会話に参入した直後、サイネリアの平凡な日常が幕を閉じた。

今現在、私は兄さん達と共に、爆発音がした場所へ走っている。

所々ヒビが入っていて、今にも壊れそうな木の扉を、兄さんが勢いよく開く。

その扉の音は、雷華さんが２０３号室のドアを開ける音よりもずっと重みがあった。

「先程の爆発音は何事だ！怪我人は ………っ！？」

「兄さん、あれは！？」

屋外の開けた広場の壁に、ぽっかりと大きな穴が空いていた。

近辺には石レンガや木材の瓦礫が飛び散り、多くの兵が倒れている。

その瓦礫の遥か上空に浮遊していたのは、おととい私を誘拐した黒ずくめの男。

多分ユラさんの父親ではなく、澪を撃った方だ。

彼の後ろには、黒っぽい赤紫の魔法陣が張られている。

そして彼の身体から、クラーレさんに会いに行く時に出くわした、あの魔物達のような赤黒い炎

が出ていた。明らかに並の人間ではない。

『我は反逆者を滅ぼし…… 全てを操る者……』

何かをブツブツとつぶやき、黒ずくめはかぶっていたフードをとった。

黒ずくめの顔が、見える。

なんだかよく分からない、心の奥に靄がかかったような感覚。

＿＿＿＿＿何故？

『我が名は"ヴァイス"………』

黒ずくめはそう言い残し、一瞬で姿を消した。

夕焼けの時の様な赤紫に染まっていた曇り空も、今はただの灰色にもと通り。

いつの間にか、魔法陣も無くなっていた。

なのに、壊れた城壁はもとに戻らない。兵士の怪我も治らない。

どうして今、"奴"がここにいるのだ。

それよりも私は、ある事だけを考えていた。

何故、"奴"の顔を見て懐かしい気持ちになったのだろうか。

どんなに頭の中の歯車を回転させても、答えは見えてこない。

ただただ、周囲の騒ぎ声が耳に入ってくるだけだった。

「リファ！？大丈夫か、こんな酷い怪我をして……！」

偶然聞こえたグリント兄さんの声で、私は現実に引き戻された。

リファが、怪我をしている？

どうしてここにリファが？

「だ、大丈夫、だよ。グリント、お兄ちゃん……」

「大丈夫じゃないだろっ！！早く治療をしないと……！」

リファはひどい怪我を負っているようだった。

早く、早くなんとかしないと、リファの命が……