晋助の口喧嘩相手(上) ページ3
「おい、アンタいくらだ。」
それは、いつしか聞かなくなった懐かしい男の声だった。
木格子越しに見えるその男は、艶やかな着物を着流し、流暢に煙管の煙をくゆらせる。
周りの女達が引き付けられるように彼に近づく。
「あらぁ、珍しく上物の男が来たわねぇ。」
「あちきの方があの貧相な女より役に立つわ、あちきを買っておくんなし。」
密やかに媚びへつらうような甘い声が耳に届く。
まるで蜜に集る蝶のようだ。
「邪魔だ、そこをどけ。俺ぁお前達に用はねェ。あの貧相な女をこっちに寄越せ。」
「そうかい、旦那様も物好きなもんだねぇ、あんな無愛想な子が欲しいなんて。」
「そうさなァ、確かに愛嬌の欠けた女にゃ違いねェ。」
彼はくつくつと笑い、鋭い眼光を真っ直ぐに私に向ける。
「ほら、ご指名だよあんた。行ってやんな。」
名前も知らない年上の女性に言われて、おずおずと近寄ってみる。
「随分とみすぼらしくなったなァA。」
「あんたは何も変わってないのね。ねぇ、ちょっと私にも一服させて頂戴。暫く吸ってないの。」
片手に添えられた細長い棒を見つめ、物欲しそうに見つめる私。
「感動の再開だってェのに野暮な女だ。」
そう言いつつ、最後にふーっと煙を吐くと、その煙管の吸口を私の口元に差し出す。
彼に持ってもらったまま吸うと、ほのやかな煙が口中に広がり、久しぶりの味に心がほぐれた。
ため息のようにそれを吐くと、差し出した腕を戻す晋助。
「で、何。逃がした魚の大きさに気付いて取り戻しに来たわけ?」
「そんなんじゃねぇよ、預けてたモンを取りに来ただけだ。」
妖艶な笑みを浮かべ、また煙管を口にする。
「預けてた?物は言いようね、私を捨てたくせに!!」
込み上げた憎しみに彼の紫の着物の胸ぐらを掴みかかる。
「おいおい、何逆上してんだ、せっかくいい着物着てるってェのに、そんな顔しちゃ映えるモンも映えねぇな。」
また嘲笑するように口角を上げる。
「はぁ、あんた見てると何もかも馬鹿らしく思えてきちゃうわ。」
「心外だなァ、そんなに俺が恨めしいのか?」
「当たり前でしょ、」
そう言うと、言い返すこと無く黙って店主がいる方へと向かっていった。
暫くすると、店主が戸を開けて私が呼び出された。
(本当に買うつもりだったなんて。)
(私を捨てたのはあんたなのに。)
彼の斜め後ろを首輪を付けられて嫌々散歩させられる猫のような気分で歩く。
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のと丸(プロフ) - メローネ大好き少女さん» 誠に申し訳ありませんが、ただ今リクエストは受け付けておりません。ご了承願いますm(_ _)m (2019年8月20日 1時) (レス) id: 73b1ba17eb (このIDを非表示/違反報告)
メローネ大好き少女(プロフ) - リクエストよろしいでしょうか?男になった月雄を見て目を合わせられない夢主にどんどん迫ってくるのと月雄が入浴中の夢主を襲いに行くのをよろしくお願いします!分かりづらくてすみません (2019年8月20日 0時) (レス) id: d4923716c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:のと丸 | 作成日時:2019年8月16日 5時