十五夜の月【高杉】(下) ページ16
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「お前、泣いてるのか。」
(ああ、今、貴方が昔私に初めて声を掛けてくれた時の台詞、一語一句間違えずに言いましたよ。)
けれど、懐かしいような、愛しいような、切ないような、遠いような、複雑な感情が甘くほろ苦く胸に広がっていくのを感じた。
あんなにも恋焦がれ、恋しさに毎晩枕を濡らしていたというのに。
純粋に喜ぶことが出来なくなっているとは思わなかった。
「いえ、お気になさらず、あら。」
彼が体勢を戻そうとして偶然腕と腕が触れ合って、衝動的に彼の腕を掴んでしまった。
「何だ?」
「いえ、その、やはや体が冷えておられたようですので、もう戸を閉めて着込んだ方がよろしいかと。」
何故こうもお節介馬鹿なのかと自分の性分を恨みながら、晋助さんの掛け襟をただして胸元を覆った。
「随分と世話焼きな女だなァ、そんなに言うならあんたが俺の体を温めてくれんのか?」
そう言うと、酔ってる彼は冷えた体で無遠慮に抱き締めてきた。
(ああ、ずっとずっとこうして貴方のことを抱き締めたいと願っていたのに。)
雄々しい筋肉質な背中に手を回して、それとなく抱き返した。
けれど体感的な温もりを感じても、心はどうにもぽっかりと穴が空いているようで寒々しく感じた。
「晋助さん、私は昔貴方のことをお慕いしておりました。」
酔っている彼なら気にとめないだろうと口にした言葉。
「....」
あまりに反応が無さすぎて彼から身を引くと、
眠っていた。
彼をそっと横たわらせると、座布団を重ねて頭を乗せた。
それから戸を締め、行灯を近づけ、彼のものであろう上着を被せた。
このわずかな時間で傾いてしまったように見えた月を見て、私は一人呟いた。
「傾く前にお会いしとうございました。月が満ちれば、あとは欠けてゆくだけです。」
空の徳利と猪口をお盆に乗せ、私は返事のない静かな部屋を出て、また膝を着けた。
両手で襖を閉める瞬間、彼への想いを永久に保存するように、蓋をするように、目を瞑るようにそっと閉じた。
彼が起き上がって私を再び呼び止めることを、本当は望んでいたような気もしながら。
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のと丸(プロフ) - メローネ大好き少女さん» 誠に申し訳ありませんが、ただ今リクエストは受け付けておりません。ご了承願いますm(_ _)m (2019年8月20日 1時) (レス) id: 73b1ba17eb (このIDを非表示/違反報告)
メローネ大好き少女(プロフ) - リクエストよろしいでしょうか?男になった月雄を見て目を合わせられない夢主にどんどん迫ってくるのと月雄が入浴中の夢主を襲いに行くのをよろしくお願いします!分かりづらくてすみません (2019年8月20日 0時) (レス) id: d4923716c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:のと丸 | 作成日時:2019年8月16日 5時