三十三話、お兄ちゃん ページ33
今でも鮮明に覚えている。
5歳のとき、公園で毎日一人で遊ぶのが日課だった。
特に用事がなくても公園のベンチに座って空を見上げる。
決まって6時には家に帰り、母さんのパート帰りを家で数分待つという、そんな日常だった。
しかし、ある日、いつものように自分以外誰もいない公園でボーッとしていると、
「ねぇ、遊ぼう」と声をかけられた。
自分と同じくらいの身長の男の子。
深く帽子をかぶっていて、表情は確認できないが、オドオドしていたため、緊張しているのだと思った。
「いいよ」
疑いもせず、その男の子の手を取り合い、公園の出入り口まで向かうと、それまで幼さが残っているキーの高い声から一変。おじさんのようなかすれた弱々しい低い声になった。
「おいで……」
小さな体ではありえないほどの腕力で引っ張られる。
その時私は、目の前の男の子が個性を使って騙して攫う、誘拐犯だと勘づいた。
離してと喚いても人気が少ない公園のことだ。
周りに人ひとり通らない場所のため、助けてくれる者はいない。
ましてや大人……成人済の男性の腕力に少女が勝てるはずもなく、公園の外に駐車してあった車に押し込まれそうになる。
「助け………て！」
掴まれてない方の腕を必死に伸ばすが、意味もなく宙を切る。
もう駄目だと目を瞑った思ったその時。
腕の圧迫が開放されたと同時にドサッという音が耳から伝わってきた。
恐る恐る見ると、大学生くらいだろう。背の高い青年が個性の解けた成人済男性を拘束していた。
それは一瞬のことで理解が追いつかないが、青年は自分を助けてくれたのだということはすぐにわかった。
間もなくして、誘拐犯は警察に引き渡されると青年が私の方により、大丈夫だったか？と心配してくれた。
ありがとう……ございました。
と告げると柔らかに笑い、こちらこそ。と言う。
「ヒーローみたいでかっこよかった！」
そう語ると青年は、
「みたい〜じゃなくてヒーローになるんだよ、俺は。」
と言い放つ。
あまりに堂々としたその宣言に憧れをいだくには時間がかからなかった。
「あの、名前は……」
そう聞いて名乗る本名。
「Aの中の一番のヒーローはお兄ちゃんだよ！」
と私は叫んだ。
鮮明な記憶はここまで。
だけれど、お兄ちゃんはこの人生の中で忘れたことはないほどの憧れを抱かせてくれた。
それが…………
相澤先生改め、消太お兄ちゃん だ。
まさか消太お兄ちゃんが私のこと覚えていてくれるとは。
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冬音 - 相澤先生がお兄ちゃんだなんてびっくりしました(笑) (2020年2月20日 22時) (
レス) id: 4b22177c0e (このIDを非表示/違反報告)
ゆめ - 轟が友達になろうって言ったとき、「こいつ、まさかとは思うが個性強くしてもらうために話しかけた・・・・？」とか思ってしまった。ごめん。 (2018年8月3日 1時) (レス) id: 071a98174c (このIDを非表示/違反報告)
つむ(プロフ) - 哀流さん» それ、書いててめちゃくちゃ思いました！（笑）でも爆豪くんならやりかねないと信じていたので（笑） (2017年11月12日 15時) (レス) id: 06e376deec (このIDを非表示/違反報告)
哀流 - 爆豪威圧で道案内とかやっぱ才能マンですねー。 (2017年11月12日 15時) (レス) id: f3d50ceb36 (このIDを非表示/違反報告)
つむ(プロフ) - 夏祈さん» 確認しました！ありがとうございます！！良ければお話しましょ！！！ (2017年11月11日 13時) (レス) id: 06e376deec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：つむ | 作成日時：2017年9月6日 22時
