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『必要のない過去の話までしてしまいました』

すみません、とAは困ったように笑った。

きっと、久しぶりに二人に会ったからだろう。
懐かしく思うこともあったのだ。


『私のことは、己を殺した復讐相手くらいの認識で良いです』

「……いや、死んでないから実感がないけど」

「死んでからじゃ遅い」


同情、なんてされるかわからないけれど、されてしまったら駄目なのだ。

ここへ来た目的を果たすためにも、彼らのためにも。
どうにかしたい、そう二人が思ってしまえば結論は同じ。
足掻いたところで未来は変わらない。


「それで、貴方は何をしに過去に来たの?」

『忠告をしに、ですかね』


端的に言えばそういうことだ。

未来を変えたいわけではない。
自分の罪を消したいわけでもない。

彼女がしたいのは、過去の改変。
それによる未来の変化には興味がない。
十五年前にあった一つの出来事を無かったことにしたいだけだ。


『敦さん。貴方は明日、仕事で擂鉢街に赴きます。そこで、薄墨色の髪をした子供に声をかけられます』


それが誰だかは、わからない方がおかしいだろう。
話の流れで彼女しかいない。

敦のAが出会うのは、明日。
そしてその明日こそが悲劇の始まりなのだ。

Aの記憶の中で血に濡れた自分の手が震えている。
浅くなった呼吸で、敦が彼女を呼んでいる。
大丈夫だよ、と力なく笑っている。



『その子に反応を示しては駄目です。絶対に、何があっても手を握らないで下さい』



握ってしまえば戻れない。

あの時の敦がそうだったように。



「その後君は、どうなるの……?」

『わかりません。恐らくは、用済みとして処分されるかと』

「そんなのは駄目だ! 何か方法を考えて」

『無理なんです』



何が無理か、どう無理なのか。
それは多分、本人にもわかっていない。

でも敦が自分を拾わないようにしなければ、ここに来た意味がなくなってしまう。
チャンスは一度しかないのだから。



『……もう、私にお二人を殺させないで下さい』



泣いてしまいそうなAに、敦が言葉を失った。

死んでしまうのは君なのに、どうして。
そう、言いたかった。

でも言えなかったのだ。
長く、己の異能が両親を殺したと思っていた鏡花が止めたから。


「明日は私も同行する。だから絶対、貴方に手を差し伸べたりはしない」



きつい言い方に聞こえたかもしれない。

だがそれこそが求めていたもので、
今となってはそれだけが救いだった。

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砂木雲雀 - 感動しました…!久しぶりにとってもいいお話を読めた気がします。ありがとうございましたぁあ…!!! (2019年6月23日 14時) (レス) id: f363e24a01 (このIDを非表示/違反報告)
真綺 - めっちゃ感動しました!! ありがとうございました!! (2019年6月23日 13時) (レス) id: 06efcbf80c (このIDを非表示/違反報告)
柊まふ(プロフ) - とても 泣きました……!神作品を、ありがとうございます (2019年6月23日 12時) (レス) id: 9a5360aa7e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ろろみや。 | 作成日時:2019年6月23日 2時

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