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この三日は、愛してくれた彼への恩返しだった。
与えてくれた代わりに返したいという、単純な想いからの行動だった。

それだけだったら良かったのに。
そうならなかったから、彼女はここにいて、少し不思議な状況になっている。


少しだけ、間があった。
話すべきAが話さない、奇妙な間が。

ゆっくりと吸い込まれた息が震えているのがわかった。


『そして九つになった頃、私は母代わりであった泉鏡花を殺します』


空気が一瞬にして冷えた気がした。

だって三人での生活はあんなにも幸せそうだったのに。
誰も、A本人でさえも、そんなことは思ってもいなかったから。


『目撃者も証拠もなかったその事件、探偵社員に問い詰められた私は父に庇われ、その場を後にします。
ですが二日後、父である貴方、中島敦を殺しました』

「……僕らが君に殺される」

『それが私を四つまで育てた彼の目的だったからです』


彼女が言った通り、男は非常に慎重な人間だった。
だからその時期だったのだ。
Aが彼らを大凡問題なく殺せるまでの成長。加えて、家族としての愛情が芽生え、油断させるまでの時間。
その両方が一致しているのが、彼らの出会いから五年が経った時だと考えたのだろう。

それが正しいかったからこそ、鏡花も敦も簡単にやられた。
娘として愛した、Aによって。


「私たちを殺したのは、その男の異能のせいなの?」

『はい。私は彼の手を離れる時に、九つになったらお二人を殺すように設定されていました』


設定されていた。そんな、人をもののように扱う言葉に不快感を覚える。
彼女はそう、扱われていたのだと。

横浜を救ったとして記事になった敦。
対象の殺害の障壁になるであろう鏡花。
何らかの理由で、彼らは男の的になってしまった。
人を救ったのに、これから救うはずだったのに。

目的を果たしたAは設定された通り男の元へ戻り、探偵社の視界から消える。
怒りで男を殺そうとすれば、幼い頃から運命共同体と知らされる。

償いに死ぬことも考えたが、怖気付いてしまい何も成せぬまま時が経つ。
だが、簡単には諦めなかった。
諦めが悪いのはきっと、敦と鏡花がそう育てたから。
最後まで希望を捨てないように、と導いたから。

そして彼らの死から月日が経ち。
Aが動き出す。

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砂木雲雀 - 感動しました…!久しぶりにとってもいいお話を読めた気がします。ありがとうございましたぁあ…!!! (2019年6月23日 14時) (レス) id: f363e24a01 (このIDを非表示/違反報告)
真綺 - めっちゃ感動しました!! ありがとうございました!! (2019年6月23日 13時) (レス) id: 06efcbf80c (このIDを非表示/違反報告)
柊まふ(プロフ) - とても 泣きました……!神作品を、ありがとうございます (2019年6月23日 12時) (レス) id: 9a5360aa7e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ろろみや。 | 作成日時:2019年6月23日 2時

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