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『やあ、少年。お腹空かないかい？ 最近何も食べてないだろう？』
緑の茂る、丘の上。
それほど長く居座るには適さない墓地で、たった一人の少年が何時間も膝を抱えていた。
差し出したおにぎりに手を出さないなんて予想外だった。
だからAはそれを自分で食べて、彼を見る。
『それにしてもまさかこの数日でお墓を建ててくれるとは。でもこの名前は良くない。愛着が湧いちゃうからね』
返事はなかったけれど、Aは話すことをやめなかった。
口調は出会った頃と同じで、距離感の掴みにくいそれ。
彼女が触れたその墓標には、中島Aを意味する文字が書かれていた。
死んだ彼女は、呼ばれたことはないけれど、たしかにその名を得ていたのだ。
大人の彼女がどう思っているかはわからないが。
「……そんな所に座ったらバチが当たるよ」
『大丈夫。だって私だもの』
まるでそれが椅子であるかのように、Aはその墓石に腰をかける。
先の言葉には何の反応も示さなかったのに、敦はようやく口を開いた。
まあ、彼女の行動への注意であって、会話ではなかったのだけれど。
「ごめん……君を助けられなくて」
ぽつり、と呟かれたのは謝罪だった。
その意味は当然、言葉通り。
未来で起こる事実は関係なく、ただこの場で一つの命を救えなかったことが敦にとっては悔しかったのだ。
自分と同じ、愛を得られていなかった子としても。
確証のない未来で、共に過ごす子としても。
『気に病まなくていい。私が望んだことだから』
敦が悔やんでいるとしても、Aにとってはこれが願ったものだった。
だからこそ、謝罪なんていらなかった。
彼が幸せになってくれれば、それでいいのだから。
「君はこれからどうなるの？」
『過去が変わったから、それに倣うだろうね』
それに倣う、つまりは未来も書き換えられる。
故に彼女の居場所は、無くなってしまうのだろう。
その事実を証明する術はないけれど、それを知ってここに来た。
尤も、既に居場所はなかったのだけど。
『まぁ、未来の探偵社には帰ってこないでねって言われたし』
「探偵社は人の不幸を願ったりしないよ」
『うん、知ってる。大方、機会があれば過去で幸せにってことだと思うけど、私にその権利はないから』
悲しそうに、といえばそうなのかもしれない。
Aは彼女らしく、何度も綺麗に笑ってみせる。
それでも寂しさがどこかに滲んでいるような気がした。
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砂木雲雀 - 感動しました…！久しぶりにとってもいいお話を読めた気がします。ありがとうございましたぁあ…！！！ (2019年6月23日 14時) (
レス) id: f363e24a01 (このIDを非表示/違反報告)
真綺 - めっちゃ感動しました!! ありがとうございました!! (2019年6月23日 13時) (レス) id: 06efcbf80c (このIDを非表示/違反報告)
柊まふ(プロフ) - とても 泣きました……！神作品を、ありがとうございます (2019年6月23日 12時) (レス) id: 9a5360aa7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ろろみや。
| 作成日時：2019年6月23日 2時
