85:面倒くさい人 約1名 ページ40
「聞いてない」
「すみません」
「聞いてない」
「…すみません」
なぜ私は謝っているのだろうか。いや、言っていなかったから私が悪かったのか。
では何が?というと、九州にある大学でトークイベントがあるのだ。1泊2日で行く。“あのこと”があってどうなるかと不安だったが、予定通り開催されるようでホッとする。このことを淳弥さんには言っていなかった。
…そもそも言う必要はあるのか。
「言う必要ある」
「うわ。人の心を読まないでください」
「だって2日間離れ離れとか正気かよ」
と、ソファに座っている私の肩に手を置く。彼は一生懸命なようで。…大丈夫かな。
「あなたの方こそ正気ですか。仕事ですよ仕事。せっかく大学のトークショーに出れるんですから」
「俺とトークショー、どっちが大事?」
こういうこと言う人いるんだなとなぜか冷静になる。仕事と私、どっちが大事なの!?っていうやつかな。
「トークショーです」
「っこの」
「わっ」
仕事を選ぶとすぐ私の髪をくしゃっと撫でる。両手でぐりぐりとされて髪はボサボサ。
こうして冗談を言えるのは彼だから、というのを本人がわかっているからこそできることなのだろう。
__しかし、本気でショックを受けていたのはここだけの話だ。
「淳弥さん、拗ねないでください」
「…拗ねてねぇ」
「すぐ帰ってきますから」
「ん」
*
時は流れ、私は既に九州に到着している。今はホテルで1人で休んでいる。イベントは明日だ。今日は早く寝て明日に備えようと思う。
__でもその前に。
「…もしもし」
『ホテルに着いた?』
「うん」
『寂しくなった?』
「っ、うん」
『そっか』
淳弥さんに電話をかけた。大好きな声を聞くことができて、下唇を噛む。うるっときてしまった。声が少し掠れているのは気のせいだと思いたい。
『もう寝るの?』
「はい。だから寝る前にと思って」
『俺もあとは寝るだけー』
「珍しいですね。まだ日付変わってないのに」
『俺のことなんだと思ってるの』
「夜更かしする人」
『うん。否定はしない』
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作者名:のん | 作成日時:2023年3月11日 19時