72：昔と変わらないいつもの彼 ページ26
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まただ。また、知らない教室にいる。
今日は、“彼”は黒板の前に立ってまるで教師のような雰囲気を出している。とは言っても、私の知らない幼い彼だ。
「知ってる？タイムスリップする夢は現実逃避なんだって」
「…」
私は1番前の席に座っている。“前回”とは少し違う。
「今、現実逃避してる？」
「そんなことは…ないと思います」
明晰夢を見て、再び彼とは会いたくなかった。
目の前にいる彼は私の知らない制服を着て、幼い顔をして笑みを浮かべている。昔の彼はこんな感じだったのかなって考えたりする。少しだけ。
「どや」
私がぼーっとしていると、いつの間にか彼は黒板に白色のチョークで何かを描き始めていた。
完成した後に振り返って私の方を見る。
＿＿見たことあるものだなぁ。
黒板に描かれていたのは、ハートのついた傘と私と彼の名前。さっきリアルでも見たよねこれ。
「子供みたい」
「年齢なんて関係ないよ」
あれ。こういう会話もさっきしたような。
___年齢なんて関係ない。
そうだ。“今の彼”もドヤ顔でそう言ってたっけ。
「ふふっ。昔と変わってない」
「？」
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「んん…」
夢を見るとあっという間に朝になっていることが多い。今日もそうだった。意識がだんだんとわかって隣にはまだ淳弥さんがいる気がする。
「あ、起きた？」
「…」
やっぱりまだ隣には彼がいて、なんというか安心感がすごい。もし、もしも誰もいなかったら。そう考えると寂しくて涙が出てきそうだ。
「おはよう」
しかし今の状況はどこかおかしい。
「おはようございます。手に持っているものは閉まってください」
「えー」
そう、彼がスマートフォンを持っていることがおかしい。昨日の会話を思い出すと本当に撮っていたのかと引いてしまう。
「写真消してくださいね」
「やだ」
止めても無駄なんだろうなとはぁ、と1回溜め息をつく。
「とか言ってさ、実際本気で止めないところがAらしいよね」
「…」
否定できないところが悔しい。
「俺の写真ないの？」
「ないですけど」
逆にあったらおかしい……いや、待って。
「私も淳弥さんを撮ればお互い様ですよね」
と、枕元にあるスマートフォンを手に取ってパシャッと1枚。
「うん。お互い様」
何やら満足気になっている。これはこれで良い思い出かもしれない。
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作者名：のん
| 作成日時：2023年3月11日 19時
