68:だって見せたくなかった ページ22
帰りは雨だった。“あ、雨だ”と呑気なことを考えて、駅の近くにいる人は皆傘を持っていた。だけど私だけ持っていなくて、そのまま彼の家に行った。
…迷惑だとわかっていたのに。
「…ただいま」
「おかえり…って、ちょっと待って」
私がびしょ濡れで帰ってきたため、私の格好を見てすぐタオルを持ってくる淳弥さん。
頭にタオルをのせて、髪の毛を拭いてくれている。
「なんでびしょ濡れ?傘は?」
「持って行ってなかった」
「コンビニで買えば良かったのに」
「…!」
「こら。“あっその手があったか“みたいな顔をするな。それか俺に連絡すれば良かったのに」
もっと俺を頼って、と言われ、胸が苦しくなる。
もちろんコンビニで傘を買うという選択肢はあった。だけどそうしなかった。
「早くお風呂に入って。…濡れて目のやり場に困る」
「…お見苦しいものを、すみません」
今日は薄手の白いシャツを着ているので雨で濡れて少し透けていた。
「いや綺麗だなって…いたっ」
余計な一言が多いこの人。足で少し蹴っておいた。痛いよ〜と駄々を捏ねているけれどそんなに力は入れていない。
さっき彼から言われた通り、早くお風呂に入らなければ。風邪をひいてしまう。タオルを持ってお風呂場に行こうとした瞬間。
「…黒か」
と、微かに声が聞こえた。ひとりごとらしいけどバッチリと耳に入った。
「聞こえた?地獄耳じゃん」
私が振り返って後ろにいる彼をじっと睨む。まさか聞こえていたなんて思っていなかったらしい。
「そういうのは心の内に閉まっててください」
「はいはーい」
*
「その光景も見慣れたものだね」
お風呂から上がって、なぜかいつも彼のパーカーを着ることが多い。
「ちょうど良いサイズですもんね」
「嘘つけ少し大きいでしょ」
「ははっ」
「はぁ…」
__泣いてたから、それを誤魔化すために濡れて帰ってきたなんて言ったら怒るんだろうな。
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作者名:のん | 作成日時:2023年3月11日 19時