65:甘え下手でも可愛いけど積極的すぎる ページ19
「…甘え下手だよね」
「え“」
いきなり変なことを言い出す私の隣にいる人。
今はソファに座ってアニメを見ている。異世界系は基本的によく見るのだ。
「…どうすればいいかわからなくて」
と、言ったのは事実で。声優という仕事に就いてからは尚更だ。
「ん」
「ん?」
私はアニメを一時停止し、彼を見ると両手を広げている。これは。いや、わからないというわけではない。でもそうやって待ち構えて見てくるのは恥ずかしい。
「ぎゅってする。嫌?」
「嫌…じゃないけど」
「ほら、ん」
「…」
抱きしめる、という言葉を使わずに”ぎゅってする“と言うところがあざといというかなんというか。
拒否権なんてないよね、と思いながら、勢いよく彼の懐に入る。
少し頭を打ったので、ふっ、と短く笑われて、顔を上げることができない。絶対に顔は真っ赤だ。
「っ良い匂い」
「感想がそれですかAサン」
「温かい」
「ん」
「ポカポカする」
久しぶりに人の温かさを感じ、目元が熱くなる。
そういえば小さい頃、母さんがこうやって抱きしめてくれたっけ。昔のことを思い出すと、この状態から抜け出したくないと思ってしまった。だけど、駄目。迷惑だから。
「ありがとうございます」
「じゃあこれから1日1回ぎゅってする」
お礼を言ってから、良い?と聞いてくる。特に深い意味はないと思ったけれど、少し様子が変だ。
「さっき、変なこと考えてませんでした?」
「…え、わかった?」
さっき抱きしめていた腕に途中で力が入ったような気がした。
しまった、バレたと感じているのではないらしく、何かと吹っ切れている気がする。
「いや、あのまま押し倒せるなって思って。でもやめました」
確かに私が座っている方は少しスペースがあった。だから私が横になるには充分のスペース。
…今日は、良い。こういう日もあって良いと思った私は行動に出た。
「えい」
「!?」
淳弥さんの首にまわし、私は背中をソファに預けて横になる。
珍しくびっくりした淳弥さんは瞬時に私の顔の横に手をつく。
「積極的すぎ」
「甘えたいので」
「…俺じゃなかったらもう襲ってるけど今の状況」
「そういうところは信じてるので」
「っこの」
少し、ほんの少しイラついている(ように見える)淳弥さんは、負けましたと私の首元に顔を埋めていた。
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作者名:のん | 作成日時:2023年3月11日 19時