卑しき狗は笑わない 参

佰玖 体目（109体目） ページ36

〜貴方 視点〜




目がさめると薄暗い天井が見えた。
横から聞こえてくる話し声





『………っ？』



そこにいた人物は男
ぼやけてはっきりとは見えない。



《体で払え》



その言葉が、あの感じが蘇る。
体が震える、息ができない。




『来るな！！！』



近くにあった鞄から、焦りつつも
銃とナイフを掴み、



そいつらに向けた。




「お、おい、どうしたんだよ」





焦っている声


その時、やっと鮮明に人物が見えてきた。




『中原……太宰に織田か』





さっきまで私は、中原たちにナイフを向けていたのか。



なんて、ことを




仲間に刃を向けるなんて、やってはいけないことだ。






「何があった」




怖い、怒ったような声で聞く中原






『な……にも………なかった』




それだけしか、声が出せなかった。
そして中原たちに部屋を出てもらった。



涙が溢れる、泣いたらダメだ。




『………薬』




鞄から精神安定剤を出して飲み込む。
本来は使わないんだが、
これでも飲まないとまた、あの男みたいに




『ウップ……』




思い出しただけで吐き気がする。

実際には吐いていないが。





ガチャ



『！！！』




急に扉が開く。


そこにいたのは




『紅葉…さん』





「Aや。少し待っておれ、茶を煎れる」




紅葉さんが部屋に入るとともに
お茶を入れ始めた。






なぜ？……紅葉さんなりの励ましか？





「ほれ。熱いから気をつけるのだぞ」




お茶は熱くはなかった。
一口飲むと、体が温まり落ち着けた。




「………何があったのじゃ」




『‼︎』




紅葉さんがお茶を置き、
私の近くの椅子に座る




「大丈夫じゃ、そちがダメだというのなら
何も聞かぬ」




その優しい声に、
話してもいいと思っていた。




『それが……』




今まであったことを全て紅葉さんに話した。




『で、でも体はもう元どおりだ。
全部、もと……どおり………』




嘘だ。
体は元どおりでも、精神が戻らない。

まだ、怖い



何処かで誰かが私を狙っているかもしれない恐怖



「強がるでない……」






わたしはお茶を飲みほし、苦笑いを浮かべる





「………その奴は、もう死んだのじゃな？」




『確かに、原型をとどめないくらいに』




「私が殺してやろうの思うていたのに。
………じゃが」




紅葉さんは、私を抱きしめた。



「Aが無事でよかった」



その声は優しく、母のようだった。

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