60曲目 カラオケ ページ10
そんなこんなでカラオケに志麻さんとやってきた。
予約無しで休日の昼間にすんなり部屋に入れたのは嬉しい。
まぁ、二人なのでとても狭い部屋なのだが。
ソファが一台しかなく、どうしても隣に座らなければならない。
私の右側で歌う志麻さんをちらりと見る。
「え」
「___っ!!」
目があってしまった。
つまり、志麻さんが歌いながらも私を横目に見ていた。
彼はすぐさま顔を逸し歌い続ける。
その横顔は赤く見えた。
こんな些細なことで照れているのが何だか可愛らしく感じて、くすりと笑う。
それでも崩れぬかっこいいキレのある声はやはり志麻さんの魅力であろう。
志麻さんが歌い終わり、私はマイクを持つ。
流れ出したイントロを聞いて、ソフトドリンクを飲んでいた志麻さんが吹き出した。
「ぶっ!
え、A、マジャ魔女歌うん!?」
「あ、はい」
志麻さんはお腹を抱え、声を出すことを我慢しクツクツと笑っている。
私が歌い出すと、こらえきれずにとうとう高笑いをし始めた。
…そんなにおかしな曲だっただろうか。
今歌っている曲は、幼女向けのアニメ、マジヤベェ魔女ラシドのオープニングテーマである。
皆知ってる、且つ合いの手があったりして聴いている人も楽しめる曲として重宝しているのだが。
曲が間奏に入ると、志麻さんが話し出す。
「お前、そんな可愛らしい曲歌うんや。
何かギャップ萌えだわー」
「萌えって…」
ラスサビが始まろうとしていたので、会話を中断し再度マイクを準備して、歌い出す。
先程のように、ちらりと横目で彼を見てみると、今度はこちらをガン見していた。
笑顔でひらひらと手を振ってくる。
…何だか子供扱いされているようだ。
小さな不満を胸に仕舞い込み、目を画面へ戻し、ラストまで歌う。
歌い終えた後、文句の一つでも言おうかと志麻さんの方を改めて見やると、
何か悩んでいるのだろうか。
自分の足に膝を付き、口元に手を当て、更には眉根を寄せて熟考していた。
志麻さん?と声をかけても反応を示さず、志麻さんが入れた曲が流れ出してもマイクを手に取らずに動かない。
ついに前奏が終わり、メロディの無い伴奏が虚しく流れ続ける。
「志麻さん?曲、始まってますよ?」
「___やから」
彼の小さな声は、虚しくも大きな音を出す伴奏にかき消される。
「すみません、今なんて」
言葉の途中で、腕を引っ張られ、私は彼の腕の中に入った。
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Shooto_Keeki(プロフ) - たまたま見つけて読んでました。もう本当に最高でした、最後の展開で泣きそうになっちゃいましたよw (2019年9月22日 19時) (レス) id: 7c93d27e64 (このIDを非表示/違反報告)
羽飛(プロフ) - 時雨さん» 最後までお読みいただき、ありがとうございました!涙だなんて、そんなに感動していただけてとても嬉しいです…! (2019年1月31日 9時) (レス) id: 56a129691b (このIDを非表示/違反報告)
時雨 - とても凄くて感動しました…!!(語彙力低下)最後涙が…;;素敵な作品、読ませていただきありがとうございました…!!!!!! (2019年1月31日 0時) (レス) id: 274b7ae121 (このIDを非表示/違反報告)
羽飛(プロフ) - 夢愛-ゆあ-さん» 長編になっていますが、最後までお読みいただきありがとうございます!泣いていただける程感動してもらうことができ、私もとても幸せに思います。わざわざコメントまでいていただき、ありがとうございました! (2019年1月7日 22時) (レス) id: 56a129691b (このIDを非表示/違反報告)
夢愛-ゆあ-(プロフ) - とても面白くて一気読みしちゃいました…!最後の方は感動で涙が止まりませんでした…(涙)実は小説を読んで泣いたのって初めてで自分でびっくりしてます(((それほど素敵な小説に出会えて幸せです!今から番外編も読ませていただきます!長文失礼しました!! (2019年1月7日 19時) (レス) id: b3b95c5e04 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:羽飛 | 作成日時:2018年11月14日 19時