【浦島坂田船】防音シェアハウスにて大暴走中

83曲目　*声の続く限り ページ33

「志麻さんやのうて、あなた」


「はい…？」


「俺Aの未来の旦那やから。ほれ、あなた」



あなた、と言わせる気しかないらしい。
ここは、彼の言うとおりにするとしよう。

…ちなみに膝の裏はかなり痛い。
突然のことでびっくりした身体が未だに震えている。



「…あなた」


「ん、偉い偉い」



それは嫁に対する態度だろうか。
自称未来の旦那はにししと笑い、私の手を離した手で私の頭をぽすぽすと叩く。

彼は自然に私の前に出ると、私の耳に髪をかけた。
髪を撫でる手は酷く優しい。



「Aの未来には、成功が待ってる。
やから、俺らを気にせんと、前に進めや」


まただ。
志麻さん身体が、うらたさんと同様に闇に蝕まれていく。

最後に彼は、遠くを見つめるよう瞳で言った。



「愛しちゅうよ」



彼も、消えてしまった。
寂しくはあるが、次の展開は予想できる。

案の定、彼は私の元へやってきた。
…上から。



「お嬢様ぁぁぁぁっ！」



「はい、坂田さ…へっ！？」



坂田さんが、私の元へ真っ直ぐ落ちてくる。

受け止めようとしていたら、いつの間にか彼は私の腰を掴み、そのまま私を上に放り投げていた。



「ちょ、え、や、」


「大丈夫やで！よっと」



彼は落ちてきた私を受け止め、そこから先の二人の淑やかなダンスとはうって変わり、激しいダンスを踊る。



「ステップが、早っ…！」


「よお足追い付くな、A！
じゃあ、もっと早くするで！って、あ」



スピードアップを試みた坂田さんが足を踏み外し、私の方へ倒れてくる。

それを咄嗟に支えられる程私の筋肉は強くなく、そのまま二人で倒れ込んだ。

が、背中に硬い感覚はなく、再び浮遊感に包まれ、それはまるで雲の上にダイブしたかのようであった。


二人して顔を見合わせ、笑う。



「ごめんなぁ、こけてもうた。
…でもな、どんな失敗をしても、Aはいつだって輝いとる。これからのこと、何も恐れんといて」



彼にもまた、闇が這いずってきていた。
それを気にせずに、彼は私の前髪をあげ、額に一つキスを落とす。



「愛しとるよ」



やはり、彼も私の前から姿を消した。

正面、後ろ、上ときたら次は…


下だ。




「お嬢様。いつまでも横になられていてはいけませんよ？」




下からセンラさんが飛んできて、その勢いのまま私をお姫様抱っこする。

風もないこの世界で、彼の髪が上品に揺れていた。

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